かなり恐ろしいジャケットです。ジョン・ケイルの顔が大写しになっていて、しかも白黒です。これはLP時代は物凄いインパクトがありました。恐ろしいなあとため息をついていたものです。そして、タイトルが「恐れ」です。怖がらせようとしているとしか思えません。

 しかし、ジョン・ケイルの主張は「恐れは人間の親友である」ということでした。♪みんな歌おう、恐れは人間の親友♪と、まるでお祝いの歌のように歌われます。ジャケットとは裏腹に恐怖と折り合いをつける普通の人生を描いているようです。

 この作品は、ジョン・ケイルの四枚目のソロ・アルバムです。このアルバムからレコード会社をアイランド・レコードに変えましたから、通称「アイランド・イヤーズ」の最初の作品ということになります。

 ケイルのソロ作品は振れ幅が大きいので、「アイランド・イヤーズ」という言い方は結構重要です。特にこの時代はアイランドゆかりのアーティストと共演していますから、音の表情が幾分か似通っています。

 具体的にはフィル・マンザネラとブライアン・イーノというロキシー・ミュージック関係者の存在が大きいです。さらに同じアイランドのケヴィン・エアーズとの共演で知られるアーチー・レゲットや、イーノ関連でブライアン・ターリントンの名前が見られます。

 ケイルはニューヨークでの活躍のイメージが強いので、アメリカ人と錯覚しますが、英国人、それもウェールズ出身です。クラシック音楽の教育を受け、ロンドンの大学では音楽学を専攻した人です。

 その後、アメリカにわたり、現代音楽のラ・モンテ・ヤングに師事した後、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドで活躍しました。その後もニューヨークでの活動が中心でしたが、アイランド・イヤーズはイギリスに戻ってきています。

 「その時は、混沌とした面白さを持っていた60年代のニューヨークと同じようなエネルギーを彼らに感じたから」というのが、彼らとコラボした理由です。確かにこの頃は最先端は英国にあったように思います。

 ケイルは時として前衛の顔を見せる人ですが、このアルバムは男っぽいボーカル・アルバムになっています。どすの効いた声で、シンガーソングライター然とした歌を聴かせます。「シップ・オブ・フールズ」のような美しい曲を始め、メロディーがしっかりした歌ばかりです。

 もちろん演奏は先鋭的な部分もあって、特に「ガン」では、フィル・マンザネラのギター・ソロにリアルタイムでイーノがトリートメントを施すという面白い手法をとっています。同時に、この曲での武骨なまでに男っぽいリズムは特筆すべきです。

 一筋縄ではいかない部分はあるにせよ、基本は美しい歌ばかりです。そのバランスも絶妙で、さすがはジョン・ケイルと唸らされます。全く無名だったジュディ・ナイロンの起用も効果的で、「その時代はイーノたちと作業をするのが楽しかったってことなんだろうね」。

Fear / John Cale (1974 Island)