ペット好きに犬派と猫派がいるごとく、オペラ・ファンの間には、ヴェルディ派とプッチーニ派がいるというのが福島章恭先生の説です。ヴェルディが犬で、「感覚的、享楽的でどこまでも個人主義」なプッチーニが猫です。

 「トゥーランドット」はプッチーニの未完の遺作となった歌劇作品です。荒川静香のトリノ五輪金メダル演技の使用曲としても有名です。ジャケットから分かる通り、これは中国の物語です。紫禁城を舞台にしたフィクション作品です。

 トゥーランドットは皇帝の娘にして絶世の美女ですが、氷のように冷たい心の持ち主で、彼女を慕う若者に3つの謎を与え、これを解いた者を夫にするけれども、解けなければ斬首にするという恐ろしい女性です。

 物語はこれを解いてしまう王子カラフと、密かに彼を恋する女奴隷リュー、それにカラフの父ティムールを軸に進んでいきます。謎を解いたカラフですが、トゥーランドットは妻となることを拒み、逆にカラフに謎をかけられます。

 最後は、リューの献身のおかげで、トゥーランドットとカラフが結ばれるというめでたいエンディングを迎えます。愛とは何かをテーマとした一大絵巻が展開されているわけです。初演は1926年、プッチーニの死後2年経っていました。

 このアルバムは、メータの指揮によりロンドン・フィルが演奏を担当しています。主役のトゥーランドットはオーストラリア出身のジョーン・サザーランド、ベルカント・ソプラノの歌手として名高い人です。カラフには三大テノールのルチアーノ・パヴァロッティです。

 リューにはフレディ・マーキュリーとのデュエットで有名なスペイン出身のモンセラート・カバリェといずれ名だたる名歌手が揃っています。デッカも気合が入っていたことでしょう。全曲盤と抜粋盤が出されていて、こちらは抜粋盤の方です。

 全曲盤は2枚組でこちらは1枚ですから、大たい半分収録ということです。もちろん、トゥーランドットで最も有名な「誰も寝てはならぬ」や「氷のような姫の心も」などは抜粋盤にもしっかり収録されています。

 パヴァロッティが歌い上げる「誰も寝てはならぬ」はさすがに素晴らしいです。オペラらしいオペラで、これぞオペラの醍醐味と言える楽曲です。やっぱり朗々と歌い上げる曲はいいです。演奏もドラマチックに盛り上がっていき、映画音楽さながらです。

 中国を舞台にした物語だけに、中国の旋律を散りばめていると言われていますが、あまりそんな感じはいたしません。まるでミュージカル作品のようにあれやこれやと趣向が凝らされているので、そんなことに耳が向かない。

 ソプラノの二人の歌唱も凄いですし、それを引き立てるオーケストラの精緻な演奏も素晴らしい。大変分かりやすい作品だけに、下手をすると下世話になりそうですが、そこを踏みとどまって見事にワクワクする演奏になっているように思います。

参照:「新版クラシックCDの名盤」文春新書

Turandot Highlights / Zubin Mehta, Joan Sutherland, Luciano Pavarotti, London Philharmonic Orchestra (1973 Decca)