芥川賞を受賞したパンクロッカー町田康の記念すべきメジャー・デビュー作です。後の町田の活躍がこのアルバムの伝説度を否が応でも高めていて、各方面から絶賛されているアルバムです。発表は1981年、日本もパンク/ニュー・ウェイブ時代でした。

 関西のパンク・シーンからはウルトラビデだとか腐れおめこだとかよほど下品な名前のバンドが登場してきて、東京とは一線を画すセンスが全開でした。INUは腐れおめこを前身とするバンドで、町田が「犬好きだから」という理由で名付けられました。センス光る。

 アルバム発表に至るまでに幾多のメンバー・チェンジを繰り返していますが、INUは元変身キリンのギタリスト北田昌弘の加入で一気にスケールアップしたと言われています。彼は音楽学校で学費免除の特待生だったそうで、まさに天才だったようです。

 「初練習の時、事前にカセットテープで渡されていたINUの曲をすべて譜面におこしてきたのでメンバー全員驚愕した」という逸話の持ち主です。「ゴムの雪駄履いたパンク兄ちゃん」が天才ギタリストの懐に抱かれて、INUが飛び上がったわけです。

 全11曲の作詞はもちろん町田町蔵です。しかし、作曲は5曲が北田、4曲が町田、そして2曲がベースの紅一点、西川成子です。この西川の曲が一番素直にパンクっぽい。また、北田の曲はB面の大半を占めますが、とても一筋縄ではいかない。

 ポップであったり、アヴァンギャルドだったり、いろいろな要素が詰め込まれた楽曲を、先鋭的な演奏で聴かせます。それに加えて、大阪弁を効果的に使った町田町蔵の歌詞の世界がジョニー・ロットンばりの歌唱で歌われていくわけですから絶賛の声も良く分かります。

 しかし、リアルタイムではそれほど絶賛ばかりだったかというとそうでもありません。渋谷陽一は「方法論を見つけることが必要」というようなことを書いていましたが、恐らくプロデュースのことを言っているのかなと思います。

 ロック評論でも有名な鳥井ガクのプロデュースは評判が悪いです。サウンドが彼もその構成員だった東京ロッカーズっぽいんです。新しい世代ではなく、旧世代に属する音になっていて、バンドのノリを台無しにしているという評もあります。

 というわけで、満点とはいかないのですが、パンク界のトリック・スター町田町蔵の「人を啓蒙したかった。けど、できなかった」時代、「ま、客というのは、だいたいアタマが悪いから、こっちが真剣にいってもわからんと思うし」と毒を吐きまくっていた熱気は十分伝わります。

 後に完成するパンクという音楽様式からすると違和感があるかもしれませんが、当時、このアルバムはばりばりパンクでした。ジャケットからしてパンク、サウンドもパンクです。何よりも町田の存在がパンクでした。今でもパンクですが。
 
 タイトル曲「メシ喰うな!」にはザ・スターリンの「メシ食わせろ」というアンサー・ソングがあります。申し訳ないですが、私はスターリン派でした。町田町蔵には遠藤みちろうの包容力がなくて、常に真剣に対峙させられるところが少し苦手だったんです。それだけパンク度強し。

参照:「パンク天国4」西村明

Meshi Kuuna! / INU (1981 Japan)