カメルーンは日本ではサッカーでお馴染みになった国です。そして、西アフリカのフランス語圏に位置していますから、フランスとの文化的な距離が近い。やはり英語圏とは随分雰囲気が違います。

 マヌ・ディバンゴは「フェラ・クティと並ぶアフロ・ミュージックの巨星である」と紹介されます。ただ、あまり西洋諸国に紹介された人がいないので、そういうことになるのでしょうが、マヌとフェラは随分と音楽性が違うように思います。

 ナイジェリアとカメルーンは別世界ですし、民族的にも随分と違います。それにフェラがナイジェリアにこだわって活動したのに対し、マヌは軽やかにフランスにわたって活躍しています。かなり対照的なのではないかと思われます。

 この作品はフランスのレーベル、フィエスタにマヌが残した作品群の中でも代表作とされる作品の一つです。発表は1976年、彼の出世作「ソウル・マコッサ」が1972年ですから、その4年後、脂が乗っていた時期です。

 ジャケットは二種類あるようで、もう一種類はアフリカの大地に立つ女性が大きくあしらわれたものです。アフリカ人ですし、タイトルが「アフロヴィジョン」ですから、そちらの方が合いそうな気がしますけれども、私はこのジャケットの方が好きです。

 何と言っても、このアルバムはまるでクラブ・ミュージックですから。彼の音楽を「ニュー・アフロ・ミュージック」と紹介したのは中村とうようさんです。このアルバムを評しての言葉ではありませんが、その気持ちがよく分かります。

 冒頭の「ビッグ・ブロウ」はほとんど4つ打ちのリズムが終始流れるキラー・チューンです。レア・グルーヴのファンが血眼になって探すのも良く分かる素晴らしさです。そこに刻むギターとクールなマヌのサックスが踊るさまは圧巻です。

 片面3曲づつですが、どちらも2曲目がゆったりした優しめの曲になっています。マヌはサックス、ボーカル、シンセサイザーの他にマリンバを演奏していますが、その2曲目では彼のマリンバが大きくフィーチャーされています。

 マリンバはアフロ・ミュージックの秘密の一つです。マリンバの音がすると、そうでなくてもポリリズムという言葉がすぐ頭に浮かびます。刻むビートの典型的な姿がマリンバの音にでているように思います。

 残りの曲は、「ビッグ・ブロウ」と同じく、反復リズムの踊れる曲になっています。ディスコ時代ですが、ディスコというよりもクラブ向けのヒプノティックな曲ばかりです。何と言ってもこのリズム感は凄いです。

 私はピッグバッグの一連のサウンドを思い出しました。英国のニュー・ウェイブ勢が再発見したファンク・サウンドはむしろこちらのアフロなビートに範をとったということが分かります。暑苦しさのない、徹頭徹尾クールなサウンドは見事の一言です。

Afrovision / Manu Dibango (1976 Fiesta)