サン・ラーの1979年は大豊作の年でした。それこそ、いろんな姿のサン・ラーを味わうことができます。その中でも、このアルバムには「強烈にファンキーでダンサブルなグルーヴが渦巻くサン・ラー史上もっともフロアライクな名曲「UFO」が収録されていることで人気です。

 「UFO」はまさかのディスコ・チューンです。ディスコのリズムでビッグ・バンドが演奏しますし、ボーカルもディスコそのものです。このリハーサルの時に、サン・ラーはメンバーに当時ヒットしていた最新のディスコ曲を聴くように指示しました。

 メンバーの何人かは「これはまがい物のクソだよ、サニー」と不満を述べました。サン・ラーは「このまがい物のクソも誰かの希望と夢なんだ。かっこつけんじゃない」と彼らをたしなめたんだそうです。

 良い話じゃありませんか。私はこの話だけで、サン・ラーに一生付いて行こうと思いました。音楽に対する態度が素晴らしすぎます。頭では分かっていても、その態度を貫くことは至難の業です。サン・ラーはやはり凄い人です。

 さて、今回のバンドはインターギャラクティック・マイス・サイエンス・ソーラー・アーケストラと名付けられています。銀河間伝説科学太陽アーケストラと訳せばよいのでしょうか。サン・ラーはその時々の気分でアーケストラに形容詞を付けています。自由な人です。

 ところで、そもそもアーケストラとは何でしょうか。オーケストラが念頭にあることは間違いありませんが、アークとは、エジプトの太陽神RAの舟(アーク)、ないしはモーゼの十戒を刻んだ石板を収めた契約の箱(アーク・オブ・ザ・コヴナンツ)を指しています。

 サン・ラーによれば、太陽神RAはRAと綴ってもARと綴ってもよいのだそうで、それを前後にもってきて間にキスト、すなわち「箱」を挟んだのだということです。アークをうまく取り込んだ素敵な名前です。

 話がそれましたが、銀河を駆け巡る伝説の科学による太陽の舟による演奏は、まるでディスコな「UFO」、「コズミックなムードと穏やかなスウィング感が木星へのトリップを約束する」表題曲、「気高く幻想的な」「魅惑のファンタジー」の3曲です。

 アーケストラの面々は総勢20人の大所帯です。今回はムーグなどのびゅんびゅん音はありません。真ん中にある「UFO」は繰り返しますが本当に典型的なディスコ音楽です。その印象が強烈で、後の2曲が忘れられがちです。

 しかし、「魅惑のファンタジー」も、ゆったりと、しかし、しつこく反復するベースのリズムを背骨に据えた幻惑の楽曲ですし、表題曲もトリップ感に溢れていて、名演奏には違いありません。お馴染みのメンバーによる演奏は素晴らしいです。

 サン・ラーの作品は数をこなしても、その都度、サン・ラーの新しい魅力に目を開かされるので、飽きるということがありません。まさかここまでディスコだとは思ってもみませんでした。この分では他にももっと驚きの作品が隠されているに違いありません。

参照: "Space Is The Place" John F. Szwed

On Jupiter / Sun Ra and his Intergalactic Myth Science Solar Arkestra (1979 Saturn)