フィリップ・リスマンがヴァイオリンを弾いている写真を見ると、まるで彼の指が今にもヴァイオリンに飛びかかろうとしている蛇のように見えた、ということで、フィリップのステージ・ネームはスネイクフィンガーになりました。

 ジャケットはそのスネイクフィンガーを象っています。人差し指がろくろ首のように伸びて蛇になっていて、当然そこが注目点なのですが、私としては妙に長い親指が気になります。どうも居心地が悪い奇妙な構図です。

 スネイクフィンガーはイギリスに生まれていますが、20歳を少し越えたところでカリフォルニアにわたりました。そこでザ・レジデンツの面々と知り合いますが、一旦、英国に戻り、チリ・ウィリ・アンド・ザ・レッド・ホット・ペッパーズとして活動しました。

 しかし、英国滞在も4年ほどで、1976年には再びアメリカにわたり、本格的にザ・レジデンツと活動を始めます。ザ・レジデンツのアルバムにも参加し、ステージも共にしています。ただ、目玉も被っていませんし、匿名でもありません。ザ・レジデンツの面白いところです。

 そして、1979年にザ・レジデンツのレーベル、ラルフ・レコードから発表されたスネイクフィンガーのソロ・デビュー作がこの作品です。プロデュースはスネイクフィンガーとザ・レジデンツが共同であたっています。

 スネイクフィンガーの作品としては、米国のグッドタイム・ミュージックに影響を受けたパブ・ロックをやっていたチリ・ウィリ・アンド・ザ・レッド・ホット・ペッパーズのサウンドに近くて当然だと思うのですが、一聴すると全く違います。

 むしろ、ザ・レジデンツの新作だと言ってもおかしくありません。ただし、この作品では随分彼のギターが活躍しています。ザ・レジデンツの音楽にスネイクフィンガーが大きく貢献していることを考えると、素直にうなづける作品です。

 ほとんどがオリジナル曲で占められているアルバムですが、いきなりクラフトワークの名曲「モデル」で幕を開けます。カリフォルニアらしい明るいカバーで、ボーカルの処理がペラペラですけれども、意外にオリジナルに忠実です。

 カバー曲はもう一曲、エンニオ・モリコーネの「マジック・アンド・エクスタシー」です。エクソシスト2の「悪魔パズスのテーマ」です。マカロニ・ウェスタン的なサウンドはスネイクフィンガーにあまりにぴったりで笑ってしまいます。

 スネイクフィンガーのギター・スタイルは独特です。うねうねしたり、ぺらぺらしたり、何とも不思議な音色で耳に残るメロディーやリフを奏でていきます。ギターらしくないと言えばらしくないですが、ブルースやジャズの影響も感じさせる正統派でもあります。 

 脱力系のサウンド展開が何とも嬉しいです。ギタリストだけにザ・レジデンツのアルバムよりも些か音楽的ですからとても聴きやすいです。レーベル・メイトのタキシード・ムーンからスティーヴン・ブラウンが参加してサックスを吹いていることもポイントが高いです。

Chewing Hides The Sound / Snakefinger (1979 Ralph)