当時、子どもを連れてマクドナルドでハンバーガーを食べている時に、BGMとして「スムース」が流れてきました。いい曲だと思ったわけですが、このギターはまるでサンタナじゃないかと妙に気になりました。まさか本当にサンタナだとは思っても見ませんでしたが。

 その頃サンタナは完全に過去の人でした。7年ぶりのスタジオ・アルバムですが、その前の作品を覚えている人などほとんどいなかったはずです。それがこのスーパーアルバムを作るわけですから、世の中は面白いものです。

 グラミー賞で9部門を独占し、売上も3000万枚を超えるというモンスター・アルバムなので、数々の記録をもっているわけですが、その中で私が最も気にいっているのは「殿堂入りしたアーティストの殿堂入り後のアルバムで最高の売上」というものです。

 ここでのサンタナは殿堂入りアーティストに相応しいパフォーマンスを見せています。さまざまなスーパースター級の人気アーティストに楽曲をお任せし、そこに出ていってはまごうことないサンタナ・ギターを刻印していくというものです。

 コラボ相手はかなり豪華です。盟友とも言うべきエリック・クラプトンは例外として、後は若い人ばかりです。マッチボックス20のロブ・トーマス、フージーズのローリン・ヒルとワイクリフ・ジーン、デイヴ・マシューズ・バンドのデイヴ・マシューズにヒップホップのエヴァーラスト。

 ドン・チェリーの息子イーグル・アイ・チェリーなどは有名でしたが、メキシコのロック・バンド、マナーや、さらにはレコード・プロデューサーのKCポーターなどはこのアルバムで知った人も多いことでしょう。

 世代もジャンルも超えたゲストを招き、自分のバンドでパフォーマンスさせるというよりも、彼らのパフォーマンスに出かけていってギターを弾くというスタイルが殿堂入りに相応しい。ギタリストというものはそういうものなのでしょう。ジェフ・ベックと似たところがあります。

 マッチボックス20はそこそこな人気バンドでしたが、ロブ・トーマスは大御所サンタナとの「スムース」によって次元の違う人気と評価を得ることになります。サンタナによる若者への恩返しです。愛情に満ちた行いです。

 それにしても誰がサンタナの大ブレイクを予想したことでしょう。後知恵ですが、前年に発表されたローリン・ヒルの「ザイオン」でカルロスがギターを弾いているのを聴いて、おやっと思ったのがその予兆だったのでしょう。

 このアルバムを覆う圧倒的に下世話な演歌感覚はサンタナの持ち味そのものです。なんやかやとブックレットにはスピリチュアルな記載がありますけれども、「哀愁のヨーロッパ」の頃の感覚が研ぎ澄まされていて、見事というほかありません。

 初期のサンタナもいいですが、これがカルロスの持ち味です。妙に霊的な方向に走らずにこうして俗にまみれたサンタナがやはり一番。ラテンのノリも絶妙に猥雑で、この中にこそカルロスが求めてやまない聖なるものが降臨しています。

Supernatural / Santana (1999 Arista)