「今、不死鳥のごとく甦るサンタナ!!」と、前作に「不死蝶」などと邦題をつけてしまったがためにやや苦しい煽り文句になっています。前作から1年4か月ぶりの本作品を「ひとことで表現しようとすれば、それはサンタナ・ディスコティックである」とカルロスが語っています。

 平均的日本人たる私がこの作品をひとことで表現しようとするならば、「『哀愁のヨーロッパ』が入っているアルバム」です。ディスコティックちゃうんかいという突っ込みが聞こえてきそうですが、この曲はアルバム中で異彩を放っているのでどうかご容赦ください。

 サンタナは前作で「ジャーニー・オブ・スピリッツ」を一旦終えて、ここにディスコティックを披露しました。マネージャーとなったサンタナを初期から応援しているビル・グラハムの「ラテン・サンタナ回帰運動」だというのがウイリーナガサキさんの説です。

 この他、一緒にツアーをしたアース・ウィンド&ファイヤーの影響説、自分の昔の曲で踊る若い人をみて改心したという説、いろいろあります。いずれも正解でしょうが、加えてスピリチュアルに飽きた説を提唱してみたいです。どうもカルロスのスピリチュアルは怪しい。

 時代は1976年。サンタナがデビューしてから7年経ちましたが、その間、ラテン音楽を巡る状況は大きく変化しています。何と言っても若者の踊るラテン音楽サルサの流行が大きいです。ヒスパニック系の若者にはロックよりもサルサとなりました。

 ラテン・ディスコとも言うべきサルサの隆盛に寄与したサンタナですから、サンタナ・ディスコティックにはサルサ風味満載です。妙にスピリチュアルの方向に持って行こうとせずに、ポップで踊れるサウンドが満載なわけです。

 代表曲は「ジプシー仲間」でしょう。スペイン語で歌われる「紛れもないサンタナ・バンドにおけるニューヨーク・サルサ」です。絶頂期を迎えるニューヨーク・サルサへのアンサー・ソングだというのがライナーでのウィリーナガサキ説です。

 バンドからは、マイケルに続いて遂にチェピートも抜けてしまい、オリジナル・メンバーは復帰したデヴィッド・ブラウンだけになりました。しかし、今回はコーラスを除き、トム・コスタを中心とする6人のメンバーだけで演奏しています。バンド感が強いです。

 カルロスはわずかに2曲に作曲クレジットを残すのみですが、ギタリストは彼だけで、今回はギターに専念している模様です。その2曲のうちの1曲が「哀愁のヨーロッパ」です。カルロスの艶めかしいギターによる「歴史的インストゥルメンタル」です。

 日本人好みの演歌調の楽曲で、有線放送でも大ヒットし、全国のストリップ劇場の定番となったという伝説が残っています。残念ながら確かめたわけではありませんが、ストリップ通いをしていた友人は「その通り」と言っていました。

 私にはスピリチュアルよりも、野性味あふれるラテン・ロックよりも、この下世話さの極みのような曲がサンタナらしくて好きです。アルバム全体もどうしようもない大衆性を備えていて、その猥雑さがたまりません。良いアルバムだと思います。

Amigos / Santana (1976 Columbia)