「待ち焦がれたニュー・サンタナ・バンドの処女作 それはラテン・リズムに彩られた永遠への回帰 ウェルカム・バック! サンタナ!!」と、この頃、サンタナを推しまくっていた今野雄二さんが熱く語りかけます。

 グレッグ・ローリーとニール・ショーンがジャーニーを結成するなど、初期メンバーの多くが脱退し、もはやバンドというよりも出入り自由のプロジェクトとなったニュー・サンタナの処女作です。前作も同様でしたが、まだ初期メンバーが多かったので、こちらが真の処女作です。

 この時期、サンタナはインドのグルー、スリ・チンモイに師事して、いよいよ本格的にスピリチュアルに入りこんでいきました。スピリチュアル仲間ジョン・マクラフリンが参加していますし、アルバム・タイトルはその筋の先達ジョン・コルトレーンの曲からとられています。

 カルロスと並ぶ初期からの中心メンバー、マイケル・シュリーヴもプロデューサーとしてのクレジットにはマイトレーヤ・マイケル・シュリーヴと記載されています。マイトレーヤとは弥勒菩薩のことです。マイケルまで精神世界に迷い出ています。

 各楽曲のタイトルもかなりスピリチュアルです。スリ・チンモイ師の著書からとったという「ラヴ・デヴォーション&サレンダー」を始め、「輝ける光」に「聖なる光」、さらにボーナス・トラックは「マントラ」です。入れ込んでいます。

 カルロス・サンタナはミーハーなんではないかと思います。スピリチュアル・ミーハー。辛酸なめ子のエッセイに出てきそうなタイプではないでしょうか。どんどんそっちの世界にのめり込めばのめり込むほど、下世話になっていくところが面白いです。

 もちろん俗の極みに聖なるものを見出すことはよくあることですから、俗が悪いと言っているわけではありません。ただ、本人の意図するところとは違うだろうなと思うわけです。過度に精神性を強調すればするほどすれ違います。

 しかし、そんなところとは全く別のところで、このアルバムはなかなか聴き応えがあります。冒頭にはドボルザークの「家路」をラテン・ロックにアレンジした作品が置かれ、最後はコルトレーンの「ウェルカム」で締めています。A面B面の構成もいいです。

 前作の路線をさらに深めて、よりフュージョン色が濃くなっており、ラテンとは縁遠そうなジョン・マクラフリンのギターが活躍する曲もあります。ふわりとした曲もあり、熱演ありと、前作の統一感はありませんが、その分、ポップな感じがしてとても良いです。

 何よりもボーカルが充実しました。ジャズ・ボーカルのレオン・トーマスの歌声がねっとりとしていて、まるでサンタナのギターのようです。プロデュースにも名を連ねているジャズ・ピアニストのトム・コスターのキーボードも活躍しています。

 もちろんチェピートを始め、パーカッション陣も充実しています。サンタナ流フュージョン・サウンドはここに極まったと思います。スキャナー泣かせの傑作ジャケットからして、まさにニュー・サンタナの真骨頂でしょう。

Welcome / Santana (1973 Columbia)