いきなり「復活した永遠のキャラバン」と来ました。ジャケットには大きな夕陽を受けて砂漠を歩くラクダの隊商。これだけでも、サンタナの四作目はコンセプト・アルバム然とした作りであることが分かります。

 タイトルは「キャラバンサライ」。この魅力的な言葉を知ったのはこのアルバムのおかげです。谷村新司の「サライ」と同じサライですが、こちらが20年も前のことです。キャラバンの宿という意味に過ぎませんが、中東世界の大きさを感じます。

 しかし、何のコンセプト・アルバムなのか、それはよく分かりません。今回ジャケットに引用されているのはインドのヨガ行者の言葉です。サンタナのスピリチュアルは節操なく、地球上のあらゆるスピリチュアルを呼吸しています。

 サンタナは前作までの大成功の後、まずはパーカッションのマイク・カラベロが新グループを結成して、解散同様になります。この作品はさほど大きくメンバーが変わっているわけでもないのですが、ニュー・サンタナによるアルバムです。

 新しいサンタナの中心には、もちろん御大カルロス・サンタナとドラムのマイク・シュリーヴがいます。アルバムをプロデュースしたのもこの二人です。前作まではアルバム全体のメンバー・クレジットがありましたが、ここでは曲ごとになっています。

 そしてメンバーとゲストの区別がありません。グレッグ・ローリーやニール・ショーン、ホセ・チェピート・アレアスなどお馴染みのメンバーも参加しているのですが、ここはそのサンタナとは違うニュー・サンタナであることは間違いありません。

 カラベロ脱退後、マディソン・スクエア・ガーデンで客席から名乗り出てきたというジェイムズ・ミンゴ・ルイスの他新顔も多数参加していますけれども、彼らはゲストではなく、メンバー扱いされています。ニュー・サンタナなんです。

 サウンドも大きく変化しました。ラテン・ロックという形容はここでもとりあえず有効ですけれども、よく言われるようにジャズ/フュージョン系の色彩が濃くなってきています。ロックの文脈で言えば、プログレッシブ・ロック系です。

 ラテンばりばりよりも当然一般的な日本人には聴きやすいアルバムです。今野雄二さんはライナーで、「遂にその頂点をきわめつくしたサンタナ・ミュージックの真髄!」と大絶賛されています。当時の世評でも日本ではとにかく高い評価でした。

 シングル曲をなくし、インストゥルメンタル中心のラテン風味フュージョン・サウンドでまとめた作品にはサンタナの新しい地平が開けています。寂しい思いをした人も多数いるわけですけれども、「風は歌う」の伸びやかなサウンドを聴いていると、これもありだと思います。

 ヨーガ行者の言葉の引用や曲のタイトルのスピリチュアル感でもってかなり難解な解釈がなされがちなアルバムですけれども、先ほど書いた通り、とても日本人耳には優しいサウンドです。サンタナの日本での人気はこれで決定づけられたのではなかったでしょうか。

Caravanserai / Santana (1972 Columbia)