一瞬、横尾忠則かと思わせるスピリチュアルなジャケットです。これはマティ・クラルヴェインというドイツ生まれのフランス人アーティストの作品です。作品名は「受胎告知」。真ん中に横たわる黒人女性はマリア様でしょうか。

 ジャケット写真を撮ったポーランドの写真家マリアン・シュミットはヘルマン・ヘッセの小説を読んで数学者の道を棄てて写真家になった人です。それが関係あるのか分かりませんが、ジャケットにはヘッセの代表作「デミアン」の一節が引用されています。

 タイトルの「アブラクサス」は頭が鶏かライオン、体が人間、足が蛇のギリシャ神話の神様です。アフリカなのか、中南米なのか、ゲルマンなのかギリシャなのか、世界中のスピリチュアル大集合の様相を呈しています。

 サンタナのセカンド・アルバムは前作に増して大ヒットしました。6週間にわたって全米1位をキープし、88週間もの間チャートに入っていました。「タイム」誌の記事にもなったという逸話が輝いています。「タイム」が輝いていた頃です。

 メンバーの一人で後にジャーニーとなるグレッグ・ローリーは「ぼくたちの音楽をラテン・ロックと呼ばせるのは、鉄砲をむけるようなものだ」と語っています。ラテン・ロックという言われ方が気に入らないということです。しかし、まあラテン・ロックでしょう。

 この作品は前作以上にロック的ではなく、むしろラテン風味全開です。ニューヨークのラテンの大御所ティト・プエンテの「僕のリズムを聞いてくれ」のカバーが収められていて、これは「プエンテのレコードを忠実に再現しており、ロックの要素はほとんどない」んです。

 シングル発売されたのは、「僕のリズムを聞いてくれ」と「ブラック・マジック・ウーマン」の2曲で、いずれも大ヒットしています。どちらもカバー曲なのですが、サンタナのこちらがオリジナルだと思っている人も多いと思われます。私もそうでした。

 「ブラック・マジック・ウーマン」は何とフリートウッド・マックがオリジナルです。にわかに信じられない話です。アルバムではこの曲はジャズ・ギタリストのガボール・ザボという人の「ジプシー・クイーン」へとメドレーされていきます。これがなかなかのアイデアです。

 このアルバムの楽曲はいずれも力作ぞろいなんですが、シングル2曲を除く曲の中で一際人気が高いのは「君に捧げるサンバ」です。インスト曲なのですが、前半のボレロからだんだんサンバに変わっていく素敵な曲です。

 そして、この曲でのカルロスのギターが凄い。情感豊かに、そしてエロティックに歌い上げる様は、カルロス節の本領発揮です。カルロスと言えばこういう甘く切ない響きが真骨頂です。その歌い始めとも言える楽曲です。

 前作の路線を追及して、さらにパワーアップに成功したアルバムです。スタジオ・ワークにも慣れてきて、ライブでの力を十全に発揮できるようになったのでしょう。強烈なパーカッション群に彩られたラテンの力がロックに吹き込まれて見事です。

Abraxas / Santana (1970 Columbia)