ハワイは良いところらしいです。海外旅行の定番として、これほど手あかにまみれた場所は他にありませんけれども、それでも発見しつくせぬ魅力があるようです。いつまでも世界の旅の目的地として魅力を放ち続けるのでしょう。グアムとは対照的です。

 残念ながらハワイには行ったこともありませんし、大相撲くらいしか接点がありませんでしたから、よく分かりません。何でも島によってかなり趣を異にするようです。オアフ島、マウイ島にハワイ島が有名ですが、この作品はカウアイ島に係わる作品です。

 夕焼け楽団を始めとする、時折太平洋エスニックな香りが漂う音楽を奏でていた久保田麻琴はハワイのカウアイ島に興味を抱くようになりました。アメリカ本土のミュージシャンの間ではカウアイ島に移住することがプチ・ブームになっていたからという理由だそうです。

 そんな思いを胸にカウアイ島を何度も訪れることになった久保田さんはすっかりカウアイ島の魅力にはまってしまいます。パワースポット的なお話ではあります。音楽を巡る話ですけれども、きっと音楽を奏でる人々の魅力が大きかったことでしょう。

 本作品の姉妹編となる前作で、久保田さんは「ある日曜日の朝、道に迷ったりした結果このハワイアンの教会に入ってみた」そうです。地元の人によって「朗々と歌われる讃美歌のひびきは素晴らし」かったと語っています。

 問題の教会はワイメアという太平洋のグランド・キャニオンと言われるワイメア渓谷の町にあるワイメア・ハワイアン・チャーチのことです。この教会の音楽を仕切っているのは、カナヘレ・ファミリーというそうで、本作品にも一家で登場しています。

 この作品は、久保田麻琴がこのチャーチを中心にカウアイ島でフィールド・レコーディングを行い、それを軸にして旅日記風にまとめ上げた作品です。日記なのでタイトルが「カウアイ3月5日」となっているわけです。

 フィールド・レコーディングらしく、カウアイ島の波の音や鳥のさえずりなどの自然音が効果的に配されています。そこにカナヘレ・ファミリーの堂々たる歌唱が違和感なく同居します。ここらあたりがとにかく耳を奪うのですが、弦楽器がもう一つの花となっています。

 ハワイアン・スラック・キー・ギターの巨匠ギャビー・パヒヌイの息子シリル・パヒヌイのギターです。それにもはやハワイアンの名人久保田自身のギターも活躍します。他にもカウアイ島のシンガー&ダンサーのアーンティ・ナニ・ヒガや山内アラニ雄喜という方も参加しています。

 民族音楽のフィールド・レコーディング的な色彩を残しつつ、しっかりと久保田さんによって見事に編集された大衆音楽の作品になっているところが素晴らしいです。さまざまな美しい情景に出会って形成されていく久保田麻琴の心象風景が眩しいです。

 観光地となってもそのディープな魅力を失わないハワイ。古代から続く異世界、太平洋の象徴なのかもしれません。伝統的な音楽を再構成した「ニイハウ組曲」を聴いていると時間と空間の感覚が麻痺してくるようです。超古代、前世の宇宙の記憶が浮かび上がります。

Kauai March-05 / Kubota Makoto (2005 Aby)