「ディスコ3000」とはこれまた意表をついたタイトルです。フリー・ジャズの大魔王サン・ラーとディスコ。サン・ラーの一部の作品はクラブ・ミュージック的ですから、考えてみれば相性が悪いわけではないのかもしれません。ともあれサン・ラーとディスコ。面白いです。

 この作品は、サン・ラーの膨大な作品群の中でも人気の高い一枚です。1978年1月23日にイタリアのミラノで行われたコンサートを収録した一枚で、オリジナルは4曲入りの1枚でしたが、これはコンサートを完全収録した2枚組デラックス・エディションです。

 オリジナルは片面に26分に及ぶタイトル曲を配しています。何と言ってもこのタイトル曲が凄い。サン・ラーがチープなリズム・ボックスとムーグ・シンセサイザーを駆使して、めくるめく電子音楽の世界を繰り広げます。

 B面の3曲中1曲「ダンス・オブ・ザ・コスモ・エイリアンズ」も同じく、リズム・ボックスをが活躍します。しかし、それ以外は、比較的オーソドックスなジャズ演奏です。もともとはタイトル曲を発表したいがために制作された1枚だと思われます。

 この年、サン・ラーはカルテット編成でイタリアをツアーしてまわります。アーケストラを連れていくお金がなかったのかもしれません。メンバーはサン・ラーに加えて、お馴染みのジョン・ギルモアとラクマン・アリ、そしてイタリアに呼び出されたマイケル・レイです。

 マイケルはこのセッションを「サン・ラー自身によって授けられたジャズの世界へのショック療法的な洗脳でもあった」と語っています。「このリンゴを演奏してみなさい。その丸い形を心に留めて、360度の音と色を考えるんだ」。禅問答のようです。

 このライブでは、サン・ラーの映画「スペース・イズ・ザ・プレース」がステージに流され、「カルテットはスクリーンの背後で映像に合わせて演奏することになった」そうです。そのせいでしょう、タイトル曲には確かに♪スペース・イズ・ザ・プレース♪というボーカルが入っています。

 電子音の洪水です。それも現代の何でも表現できる洗練された電子音ではなくて、電子音電子音したチープな音ばかり。それがぐちゃぐちゃに混ぜ合わされて見事です。サックスやトランペットと混ざり合うチープな電子音が素敵です。

 一方で、完全盤に追加で収録された楽曲はジャズ・コンボの演奏です。これはこれで普通にジャズです。「いつか火星でライヴをやるかもしれない。だから、君はホーンでスウィングできるようにならないといけない」とマイケルはサン・ラーに言われています。

 「なぜなら彼らは地球人のようにはパーティーをしないのだから」。してみると、ここで披露されている音楽は、火星人のパーティーのための演奏でしょうか。ジャズ界最大のトリック・スター、サン・ラーの面目躍如たるものがあります。
 
 サン・ラーは、彼の映画フィルムが税関に没収された際、「あなたたちは私の美と芸術のフィルムを没収しておきながら、下の階のロビーでは裸の女性器の写真を売っているのか」と詰め寄って返却させたそうです。このアルバムの音に似合う話です。

Disco 3000 / Sun Ra (1978 El Saturn)