ジェファーソン・エアプレインはヘイト・アシュベリー、サマー・オブ・ラブなどという60年代後半のアメリカ西海岸ヒッピー文化のキーワードとともに語られるバンドです。そのこと抜きには考えられないと言ってよいと思います。

 私は当時はまだ10歳にも満たなかったので、リアル・タイムでは知りません。しかし、そのお話はよく耳にしたものです。ただし、当時は海外旅行が解禁されたばかりの頃ですから、カリフォルニアに行ってきた人など数えるばかり。ほとんど伝聞の世界でした。

 そうなると余計に伝説化されていくものです。ヒッピー文化の代表としてのジェファーソン・エアプレインもまさに伝説でした。その伝説っぷりは、結局のところ、「あなただけを」と「ホワイト・ラビット」の二曲に収斂します。

 これはその二曲を含む彼らの代表作です。私はこのアルバムを昔から持っており、何度も聴いていますけれども、いまだにこの二曲以外の曲、特にマーティ・バリンの歌う曲を聴くと新鮮に感じます。こんな曲が入っていたっけ?それだけ思い込みが激しいわけです。

 後に彼らはジェファーソン・スターシップ、スターシップと名を変え、さらにマーティはソロで「ハート悲しく」なんていう曲で大ヒットをとばします。後の音楽と「あなただけを」や「ホワイト・ラビット」との距離は大きいのですが、本作収録の「帰っておくれ」とはさほどではありません。

 アルバム全体を聴き通すと同時代の「サージェント・ペパーズ」とも比肩しうる名盤であろうと思いますが、やはり二曲の破壊力が凄すぎます。その意味では少し不幸なアルバムかもしれません。本当にいいアルバムなんですが。いつまでも新鮮ですし。

 この作品は彼らの二枚目のアルバムで、ボーカルのグレース・スリックが加入してから最初のアルバムです。「あなただけを」はグレースのどすの利いたボーカルがサイケデリックを連れてくる、女性の時代を象徴する奇跡の名曲だと言えます。

 サイケデリックということでは、グレースが、マイルスの「『スケッチ・オブ・スペイン』を24時間聴き続け」、「LSDによる幻覚のなかで童謡『不思議の国のアリス』とラヴェルの『ボレロ』をつなぎ合わせて生み出した」と言われる「ホワイト・ラビット」が抜きんでています。

 この2曲はグレースがエアプレインに持ち込んだ曲で、このヒットがカリフォルニアのサイケなフォーク・ロックを旨としていたエアプレインを離陸させることになりました。全米で大ヒットを記録し、時代を象徴する永遠の名盤の地位を獲得しました。

 アルバムには「音楽的かつ精神的なアドバイザー」としてグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアのクレジットがあり、彼はいくつかの曲でギターも弾いています。プロデュースはリック・ジェラードという人があたっており、エコーの深いサイケデリックな仕様に仕上げました。

 ザッパ先生とポール・サイモンは「エコーがかかり過ぎ」だと批判的です。彼らの生演奏を見ている二人の意見ですから気になります。生で聴くともっと凄かったのだとしたら、どんなに猛烈だったのだろうかと思ってしまいます。このままでも名盤には違いありませんから。

参照:「ビートルズから始まるロックの名盤」中山康樹

Surrealistic Pillow / Jefferson Airplane (1967 RCA)