メロンと因縁の深いスネークマン・ショーの小林克也が、メロンの音楽を指して「何でこんなに綺麗な音楽を皆聴かないんだろう」と語っていたことがやけに記憶に残っています。心の底から不思議に思っていることが伝わる言い方でした。

 メロンのようなお洒落なバンドを聴いていると、「人と違った音楽を聴いている自分に酔っている人」と言われることが当時は結構ありました。そうなると、だんだん人に音楽の話をするのが億劫になってきます。本当に綺麗な音楽だから聴いているだけなのに。

 メロンはプラスチックスの中西俊夫と佐藤チカのバンドです。プロデュースのスネークマン桑原茂一もメンバーとされることがあります。スネークマン・ショーのアルバムで彼らの音を初めて聴いた人が多いはずで、それだけ両者のつながりは深かったです。

 桑原は日本で最初のクラブとも言われるピテカントロプスを1983年にオープンしています。「とにかくメロンを応援したい」という気持ちで、「彼らがライブをできる場というものを作りたかったんです」というほどメロンにのめり込んでいました。

 いい話です。こうして日本のクラブ・カルチャーが作り上げられていったわけで、先達たちの奮闘が嬉しいです。「やむにやまれず衝動であのお店を作った」という感覚がいかにも新しいことが誕生する瞬間っぽくて素敵です。

 そこまで桑原を魅了したメロンは、とにかくお洒落なバンドでした。このアルバムは彼らのデビュー作にして、この系統では唯一のアルバムです。もちろん、後期プラスチックスの流れと無縁ではありませんが、こちらは本格的なミュージシャンが大挙参加しています。

 それも変態ベース野郎のパーシー・ジョーンズや、パティ・スミス・グループのピアニスト、ブルース・ブロディ、トーキング・ヘッズつながりと思われるスティーヴン・スケールズにPファンクのバーニー・ウォーレルなどの外国勢が活躍しています。

 日本からは全面的に参加して千変万化のギターを聴かせる土屋昌巳、YMOから細野晴臣と高橋幸宏。いずれ名だたるミュージシャンばかりです。ノン・ミュージシャンの代表だったプラスチックスとはそこのところが大きく違います。

 圧倒的な演奏力でプラスチックスの楽曲を演奏するとこうなるのかもしれません。全く違うものと考えた方がよいのかもしれませんが。サウンド自体はクラブ仕様ではあるものの、時代はまだ本格的なクラブ音楽を生んでおらず、ロック的なサウンドです。

 そしてとにかく美しい演奏です。中西俊夫の演歌でもいけそうな魅力的な声と相まって本当に美しい。パーシー・ジョーンズの変態ベースに土屋昌巳のギター他によるキラキラした浮遊感が得も言われず綺麗です。音の細部にまで気が詰まった綺麗綺麗な音楽です。

 特にスネークマン・ショーでもお馴染みのタイトル・トラックと「ハニー・デュー」は美しいですし、最後を飾る「ファイナル・ニュース」のメロディーさばきは涙が出そうです。日本のニュー・ウェイブ・サウンドの頂点近くに位置する作品です。

Do You Like Japan? / Melon (1982 Alfa)