ポルナレフと言えばお尻。女装して尻を丸出しにしたポスターで物議を醸した御仁です。50代の方ならだれでもご存じだと思われるフランスのスーパースター、ミッシェル・ポルナレフです。それほど70年代初めの頃の彼の人気は凄かったです。

 フランス語で歌われるポップスは眩しかったものです。彼の歌で初めてフランス語に触れたわけで、英語とも違うお洒落な響きに魅了されました。フランス語を第二外国語に選んだのは彼の影響もあったのかもしれません。

 ポルナレフはフランスでももちろん大スターでしたが、日本でも大スターでした。そして、その代表曲が少し彼我で違いました。日本での最大のヒットは「シェリーに口づけ」で、これはフランスではシングル・カットもされていません。

 いかにもフレンチ・ポップス然とした軽やかな曲調は日本では殊の外ヒットし、今でもしばしばドラマやCMに使われるほどです。しかし、ポルナレフのフランスでの位置づけは少し異なります。最初のヒット「ノン・ノン人形」にみられるフォーク・ロック的な楽曲が彼の特徴です。

 要するにフランスにアメリカンなテイストを持ち込んだことにあるようです。クラシックの英才教育を受けた彼は思春期にエルビス・プレスリーのロックンロールと出会ってドロップ・アウトします。さらに後年にはアメリカに本拠地を移しています。

 米国もフランスも同じ外国である日本にいる私たちとしては、アメリカ仕様で分かりやすくなったフレンチ・ポップスを愛でていたわけで、アメリカ色が強すぎると本場ものを聴こうということになってしまったものと思われます。

 ポルナレフの複雑なディスコグラフィーはあまり整理されていません。シングル中心で聴いていましたので、こうしてベスト盤を聴くのが私には似合っています。もちろん全部知っていたわけではありませんが、何曲かは本当によく聴きました。

 「シェリーに口づけ」の他には、ほぼ初めて買ったシングル「忘れじのグローリア」、「愛の願い」、「愛の休日」、「愛のコレクション」、「哀しみの終わるとき」などなど。マニア向けの「ラース家の舞踏会」には胸が熱くなります。

 しみじみと聴き直してみるといろいろと発見もあります。「愛の休日」はまるで日本のグループ・サウンズの楽曲のようです。ロマンチック全開の楽曲ばかりかと思うと、ジャズっぽい曲もあり、サエキけんぞうがカバーしている「つけぼくろ」はヘビーなロックです。

 メロトロンなどの新しい楽器を導入したり、アコーディオンやストリングス、ホーンから何から音楽的にもさまざまな冒険がなされていることも発見でした。ベスト盤だからそう思うのかもしれませんが、その声以外に統一感がまるでありません。いろんなことをしてみる人です。

 ロシア系の人ではありますが、私たちにはフランスそのものでした。フレンチ・ポップスと言えばポルナレフ。歌謡曲的な雑食性の高いフレンチの真髄がポルナレフ。彼の存在は私たちにとってはアングロサクソン支配へのささやかな抵抗でした。

Michel Polnareff Best / Michel Polnareff (2004 ユニバーサル)