年代の分からないジャケットです。そこに写っているバンドの面々がまたよく分からない。前にいる二人はかなり年配のおっさんですが、後ろの二人は若者っぽく、それに一人イギリス人が混ざっています。何だか変なバンドであることが分かってもらえると思います。

 時は2009年に遡ります。タイ人DJマフト・サイとタイに魅せられたイギリス人クリス・メニストの二人がパラダイス・バンコク・パーティーなるものを始めました。これが、レゲエやアフロ・ビート、ジャズにタイの大衆音楽をこき混ぜた選曲で人気を博します。

 その二人がプロデュースを手掛けたのがこのバンド、パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンドです。中心となるのはタイの伝統的な楽器ピンとケーン、それに普通のドラムとベース、パーカッションの5人組です。

 ピンはギターのような弦楽器、ケーンは竹のハーモニカ、笙のような吹奏楽器です。この楽器を操っているのは1970年代から活躍する名手二人、ピンはカマオ・ベッドタノン、ケーンはサワイ・カウソンバットです。二人はタイの伝統音楽モーラムのベテラン・ミュージシャンです。

 その二人にインディーズ出身で普段はロックやレゲエを演奏している若いミュージシャン二人を組み合わせたところがこのバンドの新しいところです。なお、パーカッションは自身もフリー・ジャズ作品を発表しているクリスが担当しています。

 目指したのは、70年代に活躍したモーラム歌手のバックバンド・スタイルだったということです。モーラムはタイ東北部イサーン地方の伝統音楽ですが、本物のモーラムを歌える歌手はどんどん少なくなっていることもあり、歌なしでも楽しいモーラムが目標です。

 古典的な楽器奏者と若手ロッカーとの間にはそれなりに相克があったようですけれども、出来上がった作品は、見事に伝統と現在が融合しています。歌のないインストゥルメンタルですから、クラブ音楽風に楽しめる作品になっています。

 ビートはディスコやファンクの色が濃いですけれども、どこか南国風のグルーヴになっています。それを下地にタイの伝統楽器が舞い踊る辺境グルーヴ・サウンドが展開するわけで、フロアでは大いに踊りが盛り上がることでしょう。

 伝統楽器ではありますが、ピンは電気ピンです。タイ風リュートと紹介されるピンですが、電気で増幅されて、12弦ギターのような響きです。ケーンはリード楽器というわけではありませんが、この飄々としたサウンドは気持ちが良いものです。

 この伝統楽器がタイ風味担当ということで、どこからどう聴いてもタイなのですが、ビートがビートだけにこてこてな感じはしません。モダンなテイストで、どこにもない音色ですし、どこにもない音楽になっています。

 「21世紀のモーラム」と高らかに宣言して迷いがありません。現在進行形の見事なサウンドで、聴いていてとても気持ちがよいのですけれども、全部聴き終わった後で、ボーカルを聴いてみたくなるのがモーラムの強さではないかと思います。

21st Century Molam / The Paradise Bangkok Molam International Band (2014 Paradise Bangkok)