TLCは90年代のガールズ・グループの中ではビヨンセのデスチャと並んで頭抜けた存在でした。デスチャはTLCの前座を務めたこともありますが、整ったデスチャに比べるとTLCは凸凹トリオっぽくて、そこがまた魅力の一つでした。

 この作品はTLCの三枚目のアルバムです。前作が1000万枚を売る特大ヒットとなりましたが、その後、彼女たちは所属事務所ともめ、連邦倒産法に基づく破産を申し立てます。結局和解することになりますが、人気絶頂の時期に無為な時間を過ごすことになりました。

 そんな騒動の後、アルバム制作を再開した彼女たちは、ファンをないがしろにして申し訳なかったという意味を込め、5年ぶりの三枚目に「ファン・メール」という題名を付けることにしました。そして封入されているブックレットにはファンメールを送った人の名前が書いてあります。

 ファースト・シングルになった「ノー・スクラブ」は当然のように全米1位を獲得しています。全くブランクを感じさせない快調ぶりです。この曲は本当に素晴らしい。数あるガールズ・グループの曲の中でも一二を争う名曲です。もう私はこの曲が好きで好きで。

 アメリカでも「いわゆるダメ男バッシングという社会現象をうみ出すにいたった」そうです。続くシングル「アンプリティー」とともにアメリカンな女の子の等身大の姿を描いて秀逸です。ヒップホップの中でもR&B寄りの彼女たちの歌を世間は待っていたのでした。

 前作ほどではないにせよ、このアルバムも全世界で1000万枚を売り上げており、日本でも何とミリオンセラーになりました。当時の日本は安室奈美恵が復帰した時期。彼女は本作でも活躍しているダラス・オースティンのプロデュースでシングルを出しています。

 日本でも受け入れられる素地が整っていました。宇多田ヒカルを始め、当時の歌姫たちから絶賛を浴びていましたし、間違いなく先端を走っていた彼女たちでした。20世紀の終わりを飾るにふさわしい活躍ぶりでした。

 本作品には著作権の関係でサンプリングを削除したものなど複数のバージョンがありますが、これは正真正銘のオリジナル盤です。ブックレットに加えて、3D仕様のジャケットが特別に添付されているバージョンです。

 ブックレットの表紙にはバイナリー・コードが書きこまれています。また、コンピューターによる合成音声の元祖ボカロとも言えるヴィッキーというアンドロイドもフィーチャーされています。「ノー・スクラブ」のサウンドも未来的と称されますし、本作のテーマが未来なのでしょう。

 プロデューサーは中心が当時の売れっ子ダラス・オースティンですが、そのほかにもベイビーフェイスやケヴィン・ブリックス、ジャーメイン・デュプリなども参加しており、隙のないサウンドが展開します。凄いものです。

 しかし、このアルバム発表の3年後にレフト・アイが事故死するという悲劇が起こります。結果的にトリオ全員が存命中のアルバムは3枚だけ。本当に残念です。「ノー・スクラブ」の続編が聴いてみたかったと切に思います。

Fan Mail / TLC (1999 Laface)