これまでの人生の中で、コンサートを見に行って前座バンドに感動したのは、プラスティックスとデミ・セミ・クェーバーだけです。私とプラスチックスの出会いは、渋谷にある西武劇場でのB-52sのコンサートでした。

 無名のバンドのオープニング・アクトですから、正直嫌な気がしたのですが、結果的にメイン・アクトのB-52sと肩を並べるほど面白かったです。リズム・マシンを抱えてぼーっと突っ立っている島武実を始め、バンドの面々のカッコよさに度肝を抜かれました。

 当時、英米での動きを受けて、雨後の竹の子のように日本にもパンク/ニュー・ウェイブ系のバンドが出現しました。その多くがどこか貧乏くさい四畳半的な雰囲気が漂う中で、プラスチックスの存在はひときわ明るく輝いていました。

 プラスチックスは、イラストレーターの中西俊夫、スタイリストの佐藤チカ、グラフィック・デザイナーの立花ハジメという三人のノン・ミュージシャンを中心にパーティー・バンドとして結成されたバンドです。最初はセックス・ピストルズなどをやっていたそうです。

 そこに伝説のプログレ・バンド四人囃子の佐久間正英というハイパー・ミュージシャンが加わって音楽面をまかされたことから、このニュー・ウェイヴ・サウンドが完成しました。ちなみにリズム・ボックス担当の島武実は作詞家、インベーダーゲームの腕を買われての加入です。

 彼らの紡ぎだすサウンドは「手づくりで、可愛くて、おもちゃっぽくて、踊れて」と佐久間正英が語っている通りです。「そしてゲーム・ミュージックのテクノには行かなかったところに、ぼくたちの美意識がハッキリ出て」います。

 典型的なピコピコ・サウンドのテクノの名盤なんですが、ギターの立花ハジメが語る通り、精神はオルタナでした。ナンセンスな言葉の羅列となっている歌詞、チープなリズム・ボックス・サウンド、聴いたことのないようなギターの音、わざとへたくそに歌っているような歌。

 すべてが揃ってどこか違う世界を描き出しています。べっとりとしないとてもクールな世界。とても強靭な精神を感じます。まさにオルタナティヴな精神を体現しているサウンドだと思います。田舎から出てきた貧乏学生にはまぶしすぎる存在でした。

 カバーのセンスも光ります。「ウェルカム・プラスティックス」という曲はギヴ・ミー・チョコレートな曲「ウェルカム・ビートルズ」のカバーです。そして「恋の終列車」はモンキーズの名曲です。オリジナルのテクノ曲に交じって居心地がよさそうです。

 テクノ御三家というちっともかっこよくない呼び方をされていた彼らでしたが、ヒカシューやPモデルとの共通点はほとんどありません。「テクニックよりもセンス、内容よりスタイル」を優先させたノン・ミュージシャンですから、音楽ジャーナリズムの間尺には合いませんでした。

 最も早く陳腐化すると当時思われていたテクノ・サウンドなのに全く古びていません。驚異のハイセンスとオルタナ精神のなせる技なのでしょう。ちょっと驚きです。グラフィックスやいくつかの曲の歌詞はあの時代のおしゃれ感覚ですが、そこも郷愁をそそって素敵です。

Welcome Plastics / Plastics (1980 Invitation)