「ダークネス」はもちろん「暗闇」です。しかし、私には「ダーク」と言えば、象さん、下駄さんのダーク・ダックスが真っ先に浮かびますので、暗黒感がなかなか伴ってきてくれません。幼少のみぎりに刷り込まれた語感は自分では如何ともしがたいものです。

 しかし、面白いこともあるもので、その語感はこのザ・ダークネスというバンドには比較的フィットします。ちっとも暗くないザ・ダークネスです。彼らはイギリスのバンドですが、サウンドを聴いた人は誰しも脳天気なアメリカのバンドだと思うでしょう。明るい。

 ザ・ダークネスはジャスティンとダンのホーキンス兄弟を中心とする四人組ヘビメタ・バンドです。ボーカルのジャスティンが、カラオケ・コンテストにて、クイーンの名曲「ボヘミアン・ラプソディー」を完コピしたことがバンド結成のきっかけだという変なバンドです。

 レコード会社の紹介文が奮っています。「20年に一度の大事件、ポスト・ニュー・メタルの核汚染の中で生き残れる最後の救世主、と言われウルトラ・ハイパー・トーンのファルセットで悩殺!!”暗闇の貴公子”こと、ジャスティン・ホーキンス」「率いるザ・ダークネス」です。

 英国のヘビメタ誌「ケラング」は彼らを絶賛しており、当時の音楽賞を数々受賞、CDも全英チャートを四週にわたり制覇しました。全米トップ40はもとより、ここ日本でもトップ10に入るヒットを記録しています。まさに彼らのデビューは大事件でした。

 そのサウンドは70年代のポップなヘビー・メタルそのものです。ひたすら明るいメタル・サウンドです。シンプルな四人組体制で繰り出される楽曲の数々は、どれもとてもキャッチーで分かりやすい魅力に溢れています。

 彼らはしばしばAC/DCやクイーン、エアロスミスやツェッペリンなどと比較されます。70年代の香りがぷんぷんするということです。しかし、並べて聴いてみるとやはりザ・ダークネスと彼らは違います。ザ・ダークネスも十分個性的なバンドです。

 面白いことに、「ケラング」では絶賛されているのですが、ジャスティンのファルセットを巡って、メタル界は分裂しています。メタルの一つの特徴はハイトーンなボーカルにあるわけですが、ファルセットは邪道だという人が多いようです。

 確かにファルセットになると俄然プログレっぽい匂いがしてきますから、それも一理あるのかなと思います。しかし、その隙を埋めるように、ジャスティンは胸の大きく開いたキャット・スーツを着て頑張っているのですから、許してあげてほしいです。

 驚異の新人だったザ・ダークネスは、その後、すくすく成長することなく、このデビュー作が頂点になってしまいました。わずか3年後にはジャスティンが薬物問題で責任をとって脱退するなど、順調な活動は全くできていません。

 典型的な一発屋パターンをとってしまっていますが、この明るい作品を聴いている限りでは、そんな風情は全くありません。音楽に無理があるわけでもないのに、なんでそうなってしまったんでしょう。こんな作品を何枚も出せばそれでよかったのに、残念です。 

Permission To Land / The Darkness (2003 Atlantic)