結果的にザッパ先生の生前最後の作品になってしまいました。そのせいもあるのでしょうが、ジャケットに写った先生の顔はかなりやつれて見えます。まだまだ若かったので、病気の進行も早かったわけです。残念でなりません。

 最後の最後に現代音楽作品をしっかりと演奏できるグループと巡り合いました。ピエール・ブーレーズとの仕事はそれに近かったようですが、これまでのオーケストラとの演奏は必ずしも理想とするところからは程遠かったとのことです。

 そもそも組合との関係で十分なリハーサルの時間がとれないとか、そんなところから不満が残ってしまうという残念な事態が続いていました。これではシンクラヴィアがなければ現代音楽風作品の数はさらに少なかったことでしょう。

 アンサンブル・モデルンは現代音楽を専ら演奏するドイツの室内楽団です。難曲を難なく弾きこなす力量に優れているだけではなく、彼らには現代音楽に対する愛があります。特にザッパのようなエンターテインメント系の作品に真剣に取り組んでくれる楽団は稀です。

 プロジェクトは1991年初めにザッパのドキュメンタリーを制作したヘニング・ローナーがフランクフルト音楽祭の代表であるディーター・レクスロスにザッパにオーケストラ作品を要望してみてはどうかと持ち掛けたことに始まります。

 ザッパ先生があまり興味を示さなかったため、オケではなくアンサンブル・モデルンのために書いてもらおうとロスに飛んだ一行がアンサンブルのCDをザッパに聴かせたところ、一気にプロジェクトが実現することになりました。

 ザッパは彼らの演奏するクルト・ワイル作品を聴いて、「演奏者のアティテュードとスタイルとイントネーション」故に強い印象を受けます。承諾を得たアンサンブル御一行は最初は自腹でザッパの元に飛び、2週間にわたって練習しています。

 決められた時刻の3時間も前に練習を始めたりもしたそうで、その熱心さにはザッパ先生も感動したと思います。自然とアイデアの交換があって、それをシンクラヴィアに入れて、さらに楽譜にするという作業が行われ、楽曲が完成していきました。

 アンサンブルも、変な台詞を言わされたりしていて、いつものザッパ音楽と変わらぬテイストでまとめ上げられた現代音楽風作品を大いに楽しんだようです。実に幸せな共同作業の結果であることは音を聴けば分かります。

 馴染みの楽曲も室内楽で新たな生命を得ました。猥雑さもそのままに室内楽としての完成度も極めて高い。超絶技巧で難曲もほぼ100%正確に弾きこなされていて、ザッパ先生も大いに満足しました。

 新しい可能性を感じる作品でした。もはやロック・バンド形式でやろうとしたことの延長にこれがありました。とても自然。違和感なし。この先どんなに発展していくのが楽しみな作品だけに返す返すも残念です。合掌と共に生前最後の作品を楽しみましょう。

The Yellow Shark / Frank Zappa, Ensemble Modern (1993 Barking Punmpkin)