パブロフの犬と言えば条件反射です。後天的に獲得された反射行動のことです。このアルバムを聴くと無暗に懐かしい思いに捕らえられるのも条件反射の一種でしょうか。私はそのようにプログラムされてしまっています。

 パヴロフス・ドッグは1975年にこの作品でデビューしたアメリカのロック・バンドです。「メロトロン/ヴァイオリンも加えた当時の米国勢の中でも際立って英国的な翳りと叙情感を導入したサウンド/内容は唯一無二」ですから、一般にはプログレと呼ばれていました。

 その特徴は何と言っても「泣きのヴォーカリスト」と言われるデヴィッド・サーカンプの「超個性的なヴォーカル」にあります。高い声はさほど珍しくはありませんけれども、彼の場合は細かいヴィヴラートに特徴があります。

 私は、このアルバムを聴いて、まるで1970年代のロックのパロディーのように思えてしまいました。1975年発表ですから、70年代そのものなのですが、妙に現代的に聴こえもするんです。それは恐らくこのボーカルのせいでしょう。

 日本ではこのアルバムは当初発売されておらず、キング・クリムゾンやイエスに在籍した有名なビル・ブラッフォードがドラムで参加した2作目がデビュー作になりました。要するにほとんど注目されていなかったわけです。

 セカンドが売れたわけでもありませんが、パヴロフス・ドッグの名前だけは皆の心を捉えました。そもそも意表をついた名前ですし、生物の授業で習いますから、高校生には印象深い名前です。このバンドは聴いたことはないけど知っているバンドなんです。

 私もリアルタイムでは一、二度聴いたことがあったような薄らとした記憶しかありませんが、名前はよく覚えています。今回、改めて聴いてみてとても懐かしく思ったのは、恐らくこのサウンドが典型的な70年代サウンドだったからでしょう。

 ボーカル以外にサウンドを特徴づけているのは、メロトロンとフルートを扱うダグ・レイバーン、ヴァイオリンとヴィオラを弾くジーグフリード・カーバーの存在です。プログレ不毛の地米国にあって、これは珍しいことでしょう。

 キーボード奏者やパーカッション奏者も含まれていますから、サウンドはかなり豊かな音色で彩られています。これで流れるようなメロディーの楽曲をハードに演奏するわけですから、プログレの中ではハード・ロック寄りという図式になります。

 そのサウンドとともに、一聴だけだと女性だと思う人もいるだろうデヴィッド・サーカンプのウルトラ・ハイトーンのチリチリ声が流れてくるところがパヴロフス・ドッグの一番の聴きどころです。鑑賞ポイントはここです。やはり、声は古びません。

 ジャケットのセンスが素敵です。19世紀のエッチングを使っていると書いてあります。バンド名にちなんで犬ばかりが表裏、そして内側に描かれています。どこか寂しげに見える犬たちの姿にプログレ風哲学を感じます。

Pampered Menial / Pavlov's Dog (1975 ABC)