アコーディオンと言えば私の世代には横森良造さんです。臨機応変、何でも演奏する横森良造管弦楽団はお茶の間のお友達でした。管も弦もなく、楽団でもありませんが、親しみをこめて管弦楽団と呼ばれていたのを覚えています。

 昔は近所にアコーディオンを弾くおじさんが必ずいたように思います。うちの町内会にもいらっしゃいました。とても身近な楽器だったがゆえに本格的な楽器扱いされていない雰囲気がありますが、なかなかどうして素敵な楽器です。

 これは2006年に結成された「粗暴にして繊細なるアコーディオンデュオ」蛇腹姉妹の初作品集です。さまざまなユニットで活躍している姉・佐々木絵実と妹・藤野由佳によるデュオですが、「偽姉妹」と書いてある通り、姉妹ではありません。

 2007年には「ジャバラ姉妹」なる自身が主演した映画を制作するなど、何だかほっこりする活動を続けてきた二人による待望の作品集ということで、パッケージから何から気合が入りまくっています。

 まずはジャケットが蛇腹折りで出来ていますし、表紙は金箔押しです。左馬さざなみのイラストレーションを全面的に使用したトータルな美術品的ジャケットとなっています。首藤彩子のデザインは時代感覚を狂わせます。

 作品は、「住民総てがアコーディオン弾きの島・蛇腹島にまつわる12の曲と物語」です。ジャケットは「現在までに明かされている蛇腹島の特性地図付き」です。各楽曲はインストですが、物語が添えられていて、まるでサントラ状態です。

 地図には、その物語に出てこない事柄も一部描かれているところがポイント高いです。空想はこうでなくてはいけません。徹底しています。物語は大人向けの童話です。稲垣足穂の「ウヰタ・マキニカリス」などを思い出させてくれます。無国籍、時空を超えています。

 演奏はアコーディオンとわずかなパーカッションのみです。音色は多い訳ではなく、アコーディオンらしい音を堪能できます。そして、物語に合わせて演奏されていくので、情景描写的な音楽風景が広がっていきます。

 近年は、「ブルガリアほか東欧のダンス曲や、プログレッシブロックに想を得た変拍子曲」をやっているということで、この作品もそういう楽曲が並んでいます。すなわち、「アコ愛が暴走して生まれた」妄想的オリジナル曲です。

 ここでのプログレは、レコメン系と呼ばれる系統に近いと思います。英米のメインストリームというよりも、少し辺境が入ったヨーロッパ然としたヨーロッパ。どうしてもシリアスになり切れない飄々とした佇まいが美しいです。

 しかし、蛇腹島の住人にとっては、何やらアコーディオンは重荷にもなっているようで、もの悲しい風情も漂ってきます。樹海のそばの「象の市場?」の謎に思いを馳せながら、砦や祠、中央高地にあやしい酒場と、蛇腹島を楽しめば、私たちも島から出られなくなります。

Songs And Stories About The Jabara Island / Jabara Sisters (2015 蛇腹姉妹)

少し古い映像ですが。。。