カンボジアン・アメリカン・バンド、デング・フィーバーの最新アルバムです。先に発売された韓国で編まれたベスト盤は、この新作からの曲を2曲含んでいましたから、ちょうど良い具合に予告編として露払いの役目を果たしていました。

 公式サイトによれば、このアルバムは、デングのトレードマークである「サイケ/サーフ/カンボジアン・ポップサウンドがアフリカンなパーカッションで拡張した」もので、「凄まじいメロディーと延々と続くサイケデリック・ジャム」から出来ています。

 そして、ボーカルは「エクシーンやジョン・ドウを鼻高くさせる」と書いてありますが、この二人はどうやらロスアンゼルスのパンク第一世代のバンドXのメンバーを指していると思われます。ということは、デングも気分はパンクなんでしょう。

 今回、バンドの面々はサウンドを拡張するためにスタジオ・ワークにのめり込む決心をしましたが、合わせてデモ録音から生まれたジャムを追及することで直感をフォローすることも忘れませんでした。要するにこれまで以上に頑張ったということでしょう。

 1960年代のカンボジア・ポップばかりではなく、「クメール・ラップやラテンのグルーヴ、アフロなパーカッション、スタックスばりのホーン・セクションの導入」など音楽的な幅が広がったというのが本人たちによるアルバム評です。

 ベスト・アルバム収録の2曲は彼らの10年に及ぶキャリアの中から選ばれた楽曲の中に置かれて違和感がありませんでした。しかし、こうして新しいアルバムとして聴き通してみると、確かに彼らが言う通り、音楽の幅は広がっています。

 ヘロヘロなカンボジア・ポップ風味は後退して、しっかりした演奏が繰り広げられています。ラテンやアフロの要素がそこはかとなく顔を出していて、演奏の厚みが増しています。ジャム・セッションもより自由度が高まっています。

 際物的な扱いをされることも多かったであろうデングの面々は、こうして音楽的な成熟の方向に向かって歩み出しました。カンボジア歌謡もどんどん新しくなっているようですから、同じところにとどまってはいられないということかもしれません。

 その分、カンボジア臭が薄れたのはしょうがありません。大たいジャケットからして無国籍風になりました。壁画のような絵には、髪の毛が鳥の巣になった女性と、その巣にミミズをせっせと運ぶ鳥が描いてあります。この色合いはどちらかといえばインドから中東です。

 アンコール・ワットにはこのような絵はありませんし、何よりももっと湿気が多いです。温暖化とともに乾いてはきましたが、カンボジアには鬱蒼としたジャングルのイメージが似合います。湿度100%です。

 サウンド自体も少し乾いてきたところが気になりますが、音のテクスチャーは豊かになりましたし、充実した本格的なサウンドに自信が漲っています。ギターはヘロヘロ感をまだ保っているので、両様の楽しみ方が出来る良いアルバムです。

The Deepest Lake / Dengue Fever (2015 Tuk Tuk)