田舎に帰るたびに聴きたくなるアルバムです。そう思わせるのはこの作品の冒頭におかれた「僕のコダクローム」のせいです。コダクロームはコダック社のフィルムの商標で、要するに写真が大好きだという歌なので、必然的に想い出の歌になります。

 しかし、時の流れは早いものです。コダクロームはもはや販売を終了していますし、フィルムと書いても若い人には何のことだか分からなくなってしまいました。昔はカメラはデジタルではなくて、フィルムを感光させて撮っていたんですよ。

 1973年の子供の日に発売されたポール・サイモンのセカンド・アルバムです。ソロ・デビュー作となる前作から16か月で発表されました。ポールのアルバム制作のペースから言えばかなり早い方です。

 前作に引き続いて、この作品も当たり前のように全米チャートでトップ10入りする大ヒットを記録しています。ここ日本でもオリコン・チャートでトップ10に入っています。ポール・サイモンは当時日本でも大人気でした。

 邦題が何で「ひとりごと」なのか釈然としないのですが、原題は「韻踏みサイモンがやって来るぞ」ってな感じの軽いものです。ジャケットもポップなものなのですが、当時の日本におけるポール・サイモンの位置づけには合わないんです。「ひとりごと」は苦肉の策でしょう。

 「僕のコダクローム」は当時シングル盤を持っていて、本当によく聴いたものです。歌詞も素敵でした。中学生が聴くには大人びた歌詞ですが、中学生は背伸びしたがるものです。さらに、晦渋でないところが、また背伸びの仕方としては格が上の感じがしたものです。

 しかし、もう一方の雄「アメリカの歌」とともに当時の私はポール・サイモンの歌しか聴いていなかったような気がします。ハード・ロックを聴き始めた中学生にとってはポール・サイモンの音楽はあくまで歌でしかありませんでした。

 ところが、大人になって聴き直してみると、演奏の素晴らしさが身に沁みて来ます。とりわけ、マッスル・ショールズ・スタジオのセッション・ミュージシャンたちの演奏は凄い。「僕のコダクローム」も凄い。アウトロのところなんて鳥肌ものでした。

 その演奏が際立っているのは「夢のマルディ・グラ」です。軽いレゲエ調の演奏に加えて、エンディングの場面でほんの短い時間だけ挿入されるジ・オンワード・ブラス・バンドの演奏はそれはそれはコクのある素晴らしいものです。

 何とも贅沢な使い方です。ポール・サイモンは軽いタッチで全編をまとめているように見えますが、中身は凝縮されています。それでいて、本人は自分はいい加減な性格だと言っています。それでは、彼が完璧主義者と呼ぶアート・ガーファンクルはどんな人なんでしょう。

 ポール・サイモンはいかにもアメリカンです。東部アメリカの理屈っぽさを一身に体現したような存在ですから、少し居心地が悪いです。こんな隙のない作品に接すると、しみじみと凄いなあと思いながらも、危険を感じてしまいます。何が危険なのかはよく分かりませんが。

There Goes Rhymin' Simon / Paul Simon (1973 Columbia)