レッチリと言えば、「ハチャメチャ度数世界一」のやんちゃなバンドというイメージしかありませんでした。数々のハチャメチャ伝説を持ち、迂闊に近寄るとどんな目に合わされるか分からないアメリカの不良、サウンドもかっ跳んでいるというイメージです。

 しかし、初めて買ったこの作品で見事にそのイメージは裏切られました。当時の帯には「『世界最強』は神話じゃない」と書かれていますし、有島博志さんのライナーの書きぶりにも、あれあれ感がにじみ出ています。

 相変わらず悪そうは悪そうなんですが、サウンドはむしろ哀愁漂う美しいものになっています。それまでとは随分とイメージが違います。しかし、結果的にこの作品はレッチリ作品の中では最も成功したアルバムです。累計1500万枚は凄い数字です。

 そういうわけなので、むしろこのアルバムのサウンドがレッチリを代表することになり、初期の姿はプロローグ的に語られる場面も多くなりました。歴史は後から改変されるという典型例でもあります。

 サウンドの変化は、ギタリストの交代によるところが大きいと言われます。しかし、ギタリストはデイヴ・ナヴァロからジョン・フルシアンテに戻っただけです。デイヴは前作のみの参加で、出世作となった前々作「ブラッド・シュガー・セックス・マジック」のメンバーに戻りました。

 とはいえ、前々作からは8年の歳月が経っていますし、前作からでも4年です。ボーカルのアンソニー・キーディスのドラッグ禍などで、解散説が何度も流れるという浮き沈みの激しい月日が間に挟まっています。ジョンも薬物依存を克服しての復帰です。

 そんなバンド史に思いを致すと、このアルバムを覆う黄昏のカリフォルニア感も感慨深いものがあります。若さで突っ走っていた面々が人生の難題に直面して、内省を深めて、さわやかな諦めでもって円熟してきたような風情です。

 この作品から全米トップ10入りした「スカー・ティッシュ」がグラミー賞のベスト・ロック・ソング部門を受賞しています。レッチリのグラミー賞はなんと2度目、レッチリにグラミー賞は似合わないように思うのは私だけなんでしょうか。

 存在そのものは似合わないのですが、楽曲自体はグラミー賞フレンドリーでもあります。アルバム全体に乾き気味のドラム音とフリーのぶんぶんベースがタイトなリズムで締めており、ちょっとハスキーなアンソニーの声が美しいメロディーを紡いでいきます。

 そこにジョン・フルシアンテの音楽知識が深そうなギターが鳴り響き、それを轟音プロデューサーのリック・ルービンがうまくまとめていく様がカッコいいです。ファンキーな持ち味を随所に残した生きのいいサウンドですが、哀愁が漂うところが素敵です。当時のヘビロテ盤でした。

 ジャケットのデザインはいかがなものかと思いますが、このサウンドのイメージがプールの赤にぴったりなのでよしとしましょう。何だかもの悲しいアルバムは夕焼けに似合います。あり得ない話ですが夕焼けの嵐というのがこのサウンドのイメージです。

Californication / Red Hot Chili Peppers (1999 Warner Bros.)