とても美しいジャケットです。描かれているのは蜥蜴の化け物でしょうか、口の中に美女が横たわっています。水彩画独特の色合いが美しいです。紙の色はピンクとブルーと二通りあり、この紙ジャケ復刻では初版の色ピンクです。紙の風合いも再現した見事な復刻です。

 これはとても不思議な作品です。リアルタイムで日本でも発売され、その後、長らく幻のアルバムだったのですが、ここのところ、何度も復刻されています。ヒットらしいヒットは全くしていないにも係わらず、とても有名なアルバムなんです。

 その要因の一つはレーベルです。エマーソン、レイク&パーマーの作ったレーベル、マンティコアの初期作の一つで、PFMとともに発表されています。このレーベル復刻が再三行われ、その都度、この作品も復刻されます。

 そして言うまでもなく、ピート・シンフィールドの名前です。彼は、キング・クリムゾンのメンバーとして歌詞を担当していました。演奏しないメンバーを加え、歌詞の世界も重要な要素とするクリムゾンのあり方は斬新でした。

 さらにピートはロキシー・ミュージックのデビュー作をプロデュースしてもいます。クリムゾン、ロキシー人脈から注目を浴びる人なわけです。私も当然その一人なので、ピート・シンフィールドのアルバムならば聴いてみたいと思っていました。

 この作品は、ピートの唯一のソロ・アルバムです。1993年に「スティルージョン」として、新曲を交えて再発表しており、私は昔はそちらを聴いていました。曲順も違っているので、オリジナルを聴いた時にはやや変な気になったものです。

 ピート・シンフィールドは詩人ですから、この作品はどうしても音楽を本業としないアーティストによるアルバムだという捉え方をしてしまいます。彼の場合は、詩作のみならず、プロデュースもしますし、ギターやシンセも弾いていますから少し違うのですが。

 そういう作品には一般的に見られるごとく、ゲスト陣は豪華です。レーベル主でもあるグレッグ・レイクを始め、クリムゾン人脈からメル・コリンズ、ボズ・バレル、キース・ティペット、ジョン・ウェットンなど錚々たる顔ぶれです。

 サウンドは意外にポップな曲やロック調の曲もあるのですが、基本はザ・プログレッシブ・ロックです。スペーシーなシンセの使い方が典型的ですし、曲の構成がいかにもプログレ的な大仰さを秘めています。プログレ的イディオムがそこここに出てくるわけです。

 気持ちよさそうに歌っているピートですけれども、はっきり言って下手くそです。一部、グレッグ・レイクがリード・ボーカルをとっている曲があり、対比が際立っています。本職のボーカリストはやはり違います。

 まあ下手でも良いんです。詩人のアルバムなんですから。それなりに佳曲がありますし、演奏は皆さんしっかりしています。何だかとても楽しそうで、ほのぼのする愛すべきアルバムです。これなら自分にもできそうだと思った人も多いのではないでしょうか。

Still / Pete Sinfield (1973 Manticore)