全世界5億人に一方的に送りつけるという前代未聞の手法で発表された作品です。残念ながら私は5億人の中には入っておらず、しかも物神信仰が強いのでこうしてCDを買って聴く羽目になっています。

 賛否両論渦巻く手法でしたが、無料配信してもこうしてCDが発表されると、とりあえず英米その他の国々でトップ10に入るヒットとなったことを考えると、ユーチューブによるPV無料配信とさほど変わらない結果だとも言えます。

 しかし、500万枚以上を売り上げた前作ですら、商業的に失敗とされるU2ですから、トップ10に入ったくらいでは惨敗でしょうか。本人たちは無断送りつけを反省しているようですから、何とも人騒がせな人たちでした。

 ボノは、自分たちの音楽が聴かれないかもしれないと強迫観念にかられてそういう手法をとったのだそうです。ほぼ別格のスターとなっているU2なのに、そんな不安があるというところが面白いです。音楽的にも常に最先端を行っていないと心配なんでしょう。

 しかし、U2の音楽にはいつの頃からか最先端を求めることはなくなりました。ここのところ、いつの時代に発表されたのか、よく分からないアルバムばかりでしたし、何よりも「U2」という一つのカテゴリーが出来ていて、他のバンドと比べることすらなくなっています。

 気が向いた時に曲を作って、その曲が貯まってきたらアルバムを作るのでいいのではないかと思いますが、きっとそんな心根ではスーパースターにはなれないのでしょう。高みに登りつめても常に前進を続ける姿勢は立派なものです。

 この作品は前作から5年半ぶりのアルバムです。彼らのキャリア史上最長のインターバルです。余裕の沈黙というよりも、難産の期間という方が当たっているようです。何度も新作の話が出ては消えていました。

 結果的にこの作品はとてもU2らしいサウンドで出来ています。しかも、ボノのセルフ・ライナーに説明がある通り、彼らの人生のさまざまな場面を切り取ったようなパーソナルな作品になっているので、ある意味、とてもシリアスかつシンプルです。

 迷いを吹っ切るきっかけとなったラモーンズやクラッシュ、幼少時からの親友の裏U2ともいえるヴァージン・プリューンズ、さらにはボノの母親アイリスの想い出、1974年のアイルランドの爆弾事件などが歌われていきます。ジャケットはドラムのラリー・ミューレン親子です。

 いつも通りのタイトなリズム・セクションに、独特の刻むギター、粘っこいボーカルが絡むシンプルなサウンドは、四人の結束の固さを遺憾なく伝えてきます。そのサウンドでパーソナルな内容を昇華した歌の数々が出来ているわけで、満ち溢れる愛を感じます。

 そこがU2ならではなんでしょう。ポピュラー音楽界を越える存在となっている彼らの力量を感じる作品です。だんだん間隔があいてくるのはしょうがありませんが、死ぬまで音楽活動を続けてほしいと思います。

Songs Of Innocence / U2 (2014 Island)