出たら買う、と決めている加藤訓子作品です。今回の趣向は、打楽器作品のご本尊とも言うべきヤニス・クセナキスの作品です。しかもDVD付きです。これはもう何をさし置いても買うしかないでしょう。

 ヤニス・クセナキスは建築家であり数学者でもありますから、打楽器との相性はぴったりです。音程のない打楽器の一音一音を緻密に重ねていくことが作曲ですから、建築のようでもあり、さらに純粋数学のようでもあります。

 加藤訓子がここで挑戦しているのはクセナキスの代表作「プレイアデス」です。6人の打楽器奏者のために作られた曲で、4章からなっています。それぞれ金属、鍵盤、太鼓と題され、もう一つはそれらの総合です。

 「鍵盤」はビブラフォン3台、マリンバ、シロフォン、シロマリンバによる合奏ですが、「金属」と「太鼓」はそれぞれ同じ楽器ばかり6台です。特に「金属」は19個のメタルからなるオリジナル楽器ジクセンで演奏されます。6台はほんの少しずつ耳に分かる微分音でずれています。

 この三章はCDのみならずDVDでも楽しめます。これが凄いです。画面には6人の加藤訓子が登場して合奏しています。圧巻のパフォーマンスというのはこういうことを言うのでしょう。微妙に異なる動きの同じ服を着た加藤訓子の舞うような姿に惹きつけられます。

 「鍵盤」を前にした加藤の動きは、まるで蟹が地を這うようで面白いです。あんなに長い棒を叩いているのにこんなにも微妙な音が出せるところが凄いです。「太鼓」も大きな動きではないのに、凄い音がします。手首のスナップが強靭なのでしょう。驚きです。

 いくら多重録音とは言え、誰か一人がタイム・キープしているわけでもないのにここまでぴったり合うというのは凄いタイム感覚です。しかし、「例えピッタリ合うような音ビートの一音でさい、人間の手では完全に一緒には」なりません。そこが味なのでしょう。

 むしろ「機械で全く同時に同じ音を同じタイミングで重ねたらそれが反発し合って全く音にならない」のだそうです。クセナキスは「人間が持つ不確定で自然な揺るぎと二つとないピッチや音色、ズレが重なった時のエネルギー」を生もうとしたと加藤は解釈します。

 この作品がダンスのために作曲されたというところが驚きです。プリミティブなダンスほど単純な反復よりも複雑な揺らぎを持っているものですから、より原始を志向する音楽なのかもしれません。素粒子のスピンのような世界の真髄の中の真髄を感じます。

 もう一曲は打楽器ソロ曲「ルボン」で、加藤が世界を見たくなったきっかけとなった作品です。何百回も演奏してきたのに、一から取り組んだことで「新たな発見と自分の成長、さらに無限な音楽の世界を垣間見ることができた」と語ります。

 前二作は打楽器用にアレンジした作品でしたが今回は譜面通りです。機が熟したということでしょう。クセナキスの圧倒的な世界観にがっぷり四つに組んだ加藤訓子の立ち姿が眩しい作品です。60分の間、圧倒されっぱなしです。

IX Ianis Xenakis : Pleiades, Rebonds / Kuniko Kato (2015 Linn)