トム・ペティ初のソロ・アルバムです。学生時代、6畳の下宿で寝っ転がって良く聴いたものです。とばかり思っていましたが、このアルバム発表時にはすでに結婚もして子どももいました。どうして勘違いをしたのでしょう。学生に似合うアルバムだからでしょうか。

 トム・ペティはハートブレイカーズのツアーの後、ソロ・アルバム制作を決意して元エレクトリック・ライト・オーケストラのジェフ・リンの自宅に打ち合わせに出かけました。そこに、ロイ・オービソンとジョージ・ハリソンが訪れます。

 その結果、誕生したのがトラヴェリング・ウィルビリーズで、そこにはボブ・ディランも加わるという夢のようなバンドでした。彼らはアルバム制作にかかることになり、あっという間に「ヴォリューム・ワン」が完成しました。

 このアルバムは、トラヴェリング・ウィルビリーズの前後に制作されたものです。プロデュースに当たったのはジェフ・リンとハートブレイカーズのギタリスト、マイク・キャンベルです。ジョージ・ハリソンとロイ・オービソンも一部に参加しています。

 バンドの中心人物がソロ・アルバムを発表するということから来るバンド内の緊張というものはほとんど感じられません。バンド・メンバーもほとんどが参加していますし、トラヴェリング・ウィルビリーズのスピン・アウトのような成り立ちでもあるからでしょう。

 ハートブレイカーズとは少し違う方向でリラックスしているように感じます。ジェフ・リンがプロデュースしているだけあって、よりポップなビートルズ的な味付けが加わっています。CDの中ほどでLPをひっくり返す時間をとるとアナウンスしているところなどもご愛嬌です。

 アルバムからは4曲ものシングル・カットがされています。一番売れたのは、冒頭の「フリー・フォーリン」です。リンゴ・スターがドラムを叩いているミュージック・ビデオが有名な「アイ・ウォイント・バック・ダウン」もトップ10に迫る勢いでした。

 アルバム自体も米国では3位、英国でも8位と大ヒットしました。トム・ペティの最高傑作は何かという問いに対して、この作品だと答える人が多いです。音楽評論家による評価も高いですし、80年代を代表するアルバムの一枚にも数えられます。

 かなり人気の高いアルバムですし、トム・ペティ自身もアメリカでの評価は極めて高いです。しかし、日本の方のブログなどを見ていますと、日本での評価が低いということがトム・ペティを紹介する枕詞のようになっています。

 ただ、スーパースター扱いではありませんが、日本でも結構な人気があったと思うのですがどうでしょう。ボブ・ディランとの絡みもありましたし、ベーシックなアメリカン・ロックを演奏するバンドとして渋いながらも光っていました。

 アルバムに収められた楽曲は粒ぞろいですし、シンプルながら手馴れたアレンジが行き届いています。ベースはロックですが、コンパクトにまとめられたシンガーソングライター的なアルバムなので、学生さんが下宿で聴くのが一番しっくりきます。そんな名作です。

Full Moon Fever / Tom Petty (1989 Geffen)