灰野敬二は魂を操る司祭です。70年代から彼のように一貫してアンダーグラウンドで活動を続けているミュージシャンは他に知りません。そのことだけでも凄いことですが、さらに活動の幅は広がっていて、常に現在形なところが素晴らしいです。

 この作品はエクスペリメンタル・ミックスチャーと題されるシリーズの第二弾で、DJ灰野敬二が、CDをアナログ的にコントロールするCDJを4台、リズムマシンを2台などDJ機材を駆使して、世界中の音楽を何層にも重ねて作り上げたものです。

 灰野は「この世界にはいろんなものがあるんだよと、ランダムに混ぜながら、みんなに知らせたいな」という気持ちを込めてこの作品を作りました。「小さな子供に聴いてもらいたいんだ」と語ります。

 友だちや恋人に聴かせようと、お気に入りの音楽をテープに編集するのと基本的には同じです。それを音楽家として、オーディエンスを世界大に広げて、さらに音源も自分のフィルターを通して徹底的に編集していますから、灰野印の世界への扉のようになっています。

 全部で21曲、たくさんの素材が細かくミックスされているので、聴いたことがあるような気がする音源もいくつかありますが、そうそう分かりません。私が分かったのは、エニグマの「リターン・トゥー・イノセンス」にも使われていた台湾のアミ族の歌と「君が代」だけです。

 彼のインタビューから素材を解き明かすと、まずはベルギーの●ェンバー・ロック、●ュルヴェルヌの「初期の作品3枚を同時にかけながらミックスした音源に、●ォーレのたくさんの曲をミックスしてい」る曲にモロッコの伝統音楽と浪花節を合体した曲が続きます。

 なお、楽して分かってはいけないので、一部伏字にせよという灰野さんの指示に従います。次いでノイズ、アフリカ、近代クラシック、ファンク・ジャズ、南洋、現代音楽、モンド、中東アラブ、パンク、東南アジア、ヨーロッパの伝統音楽など、ありとあらゆる音楽が飛び出します。

 面白いのは●ントヴァーニ楽団の使用です。イージー・リスニングものは、「ちゃんと聴くと、新しい発見がある。この歳になっても、新しい出会い、発見はいくらでもある。どこで出会って、どうつながってゆくのか、本当にきりがないよね。うれしい悲鳴」。同感です。

 全部を聴き通すと、灰野さんの音楽への愛が伝わってきます。「自他共に認める音楽好きであり、長年いろんなものを聴いてきて、今でも日々新しい発見ができている」彼は、
こんなにもさまざまな音楽が世界にはあるんだよ」と語りかけてきます。

 しかし、なかなか種を明かさない。このCDを聴いて、目が開かされて、次に「あれを聴こう」となる手がかりがありません。そこがまたいいです。苦労して苦労して見つけることが必要だと突き放されます。ツンデレ的といえばツンデレ的。

 既成の音源を使っていても、全く新しい音が響いてきます。音楽は音を編集したものだと言えるわけですから、これもまた一つの作曲。灰野敬二のオリジナル作品と全く同列において楽しむことができる作品です。

参照:オトトイ http://ototoy.jp/feature/2014102201

The Greatest Hits Of The Music / Haino Keiji (2014 Youth)

見当たらないので、こちらからどうぞ。
http://www.clinck.co.jp/merurido/dtl.php?ky=YOUTH257