妙に細かいアニメのようなジャケットは、ロニー・リストン・スミスの姿を写して秀逸です。砂漠なのか何なのか、やけにタッチの細かい雲に、イスラム風の建造物、それにヤシの木と何だか無国籍な風情です。

 ロニーのサウンドは「伝説のコズミック・サウンド」です。コズミックであるとすると、ジャケットの無国籍も合点が行きます。コズミックには国境などありません。大宇宙をシャワシャワと星が縦横無尽に流れていきます。

 「スピリチュアル・ジャズをベースに、ファンク、ニュー・ソウルのエッセンスを取り入れ、エレクトリックなテクノロジーを導入したコズミック・ジャズ・ファンク」です。1975年の作品ですけれども、まるでクラブ・ミュージックの紹介文です。

 この作品のタイトル曲は、90年代に入ってからクラブ・シーンでヒットしています。今や「不動のクラブ・クラシック」です。確かに、このサウンドはクラブ・ジャズそのものです。ハウスの洗礼を受けていない時代のものとは信じられないくらいです。

 ロニー・リストン・スミスはファラオ・サンダースやガトー・バルビエリ、マイルス・デイヴィスなどと共演してきた人で、1973年に自身のバンド、コズミック・エコーズを率いてリーダー・アルバムを制作します。この作品はロニーとコズミック・エコーズの3作目のアルバムです。

 ロニーがエレクトリックに目覚めたのはやはりマイルスとの共演がきっかけです。短期間しか共演していませんが、マイルスがエレクトリックに嬉々として挑んでいく姿が彼の魂に火を付けたようです。

 もともとジャズ・ジャイアントのアート・ブレイキーやマックス・ローチの元で腕を磨いたロニーですから、出自はモダン・ジャズ・ピアニストです。それがエレクトリックに目覚めていく中で、ジャズとファンクが融合して、クラブ・ジャズを先取りする結果となったということです。

 バンドの面々の中で、ひときわ目立っているのが、セシル・マクビーです。彼のベースはダブル・ベース、すなわちアコースティックなベースですけれども、見事にエレクトリックなサウンドにマッチしています。

 マクビーはリーダーとしてよりも、サイドメンとしての活躍が光る人で、共演者を並べるだけでジャズ史が出来てしまいます。日本人だと山下洋輔が有名です。とにかく、彼の作り出す印象的なリフがこのアルバムの背骨を作っています。

 もちろん中心はロニーのコズミックな鍵盤さばきですが、それぞれの楽曲が素晴らしい。スムーズでまろやかなジャズの音色がクラブ・ジャズ的です。リフの繰り返しによるトラックに絹のような手触りのサウンドが流れる構造がクラブ・ジャズなんです。

 ロニーの弟ドナルドのボーカルも高めのしなやかな声で、これまたクラブ・ジャズ的。力強いファンクをスムーズな音色で包み込んだサウンドは、どの時代にあっても新しい。発表後40年を経てもなお色褪せていません。

Expansions / Lonnie Liston Smith & the Cosmic Echoes (1975 Flying Dutchman)