好評をもって迎えられた実質的なソロ・デビュー作の次の作品というのは誰にとっても難しいものです。ほとんどの場合、褒められることはありません。ロバート・ワイアットのこの作品も案の定、評するのが難しい作品として知られています。

 前作の後、ドゥルーリー・レーンでのコンサートがありましたし、トップ・オブ・ザ・ポップスに出演したり、他の人のアルバムに参加したりと忙しい日々を送っていたロバートですが、意外にあっさりとアルバムを発表しました。

 ドゥルーリー・レーンのバンドでツアーに出てはどうかという話もあったようですが、ロバートはバンドはこりごりだと断ってしまいます。そして、ソロにこだわって制作したのがこのアルバムです。メンバーは前作とは微妙に異なっています。

 ジャズ畑からはニザー・アーマッド・カーンというサックス奏者やお馴染みのギャリー・ウィンドなどが参加しています。面白いことに彼らはホーンをもっと入れるように強く主張して、ロバートが「誰のアルバムだと思ってるんだ」と怒ったという話が伝わっています。

 さらに面白いことに、その論争は結局イーノのお得意の王様ゲーム・カード「オブリック・ストラタジーズ」を引いて決着したということです。ソロ・アルバムだからといってもなかなか決めきれないところがロバートの人となりを表しています。

 イーノの役割はユーモラスなクレジット「反ジャズ光線銃」が示唆する通り、ジャズ寄りになり過ぎるところを抑えるというものでした。ということは、アルバム全体にジャズの香りがするということでしょう。フリー・ジャズのチャーリー・ヘイデンの曲をやってますし。

 アルバムはA面B面ではなくて、ルース・サイドとリチャード・サイドに分かれています。ルースの方がリチャードよりもストレンジだというタイトルに従えば、両面大きく違うようですが、実際には通して聴いても全く違和感がありません。

 曲によってミュージシャンが変わります。リチャード・サイドではヘンリー・カウのギタリスト、フレッド・フリスの活躍が目立ちますし、ホーン入りの楽曲でもヘンリー・カウ的なプログレッシブなサウンドが展開します。ブルース臭がせず、フリー・ミュージック的なロックです。

 ルース・サイドの曲には、ソフツの前のワイルド・フラワーズ時代の曲「スロー・ウォーキン・トーク」の改作「スープ・ソング」や、客演してスペイン語のボーカルを聴かせたフィル・マンザネラの「フロンテラ」を改作した「チーム・スピリット」が含まれています。

 後者は私も大好きな曲ですが、言われなければそうだとは気づきません。そして最後が「チョング・フォー・チェ」。チャーリー・ヘイデンのリブレーション・オーケストラの作品です。同サイドのもう一曲はモンゲジ・フェザの曲ですから、全部が訳アリの面です。

 前作がヴァン・モリソンの「アストラル・ウィークス」級だったために、影が薄い作品なのですが、ヘンリー・カウなどレコメン系のサウンドとカンタベリー・サウンドという相性ぴったりのサウンドが融合した小粋な作品です。しかし、ロバートはまた落ち込んでいくことになります。

参照:"Different Every Time"Marcus O'dair

Ruth Is Stranger Than Richard / Robert Wyatt (1975 Virgin)