イギリスのトニー・ブレア元首相は、在任中に音楽賞授与式に登場し、学生時代にバンドをやっていた想い出を語り、ついでに「ボックス・セットも出ないし、再結成もない」と話して会場を沸かせました。

 再結成が出来るバンドは、昔、成功したバンドに限られますから、そんなに多くはありません。ザ・ポップ・グループは商業的には成功したとは言えませんが、後のシーンに与えた影響が極めて大きかったですから、再結成がさまになります。

 「ザ・ポップ・グループの新作リリースに立ち会えるこの奇跡!35年ぶりに放たれる」アルバムです。まさか彼らが再結成するとは思ってもみなかっただけに驚きも一入です。アルバムまで出すとは本気度も高いです。それに来日までしてしまっています。

 ただし、オリジナル・メンバーが揃ったわけではありません。中心人物だったボーカルのマーク・スチュワート、サウンドの要のギャレス・セイガーとドラムのブルース・スミス、それにベースは後期メンバーのダン・カツィスの4人による再結成です。

 ここにいないのは、ギターのジョン・ワディントンとベースのサイモン・アンダーウッドの二人です。派生バンドでいえば、マフィアとリップ・リグ&パニックの合体で、マキシマム・ジョイとピッグバッグは参加せず、というお話です。

 プロデュースはポール・エプワースです。彼はアデルやブルーノ・マースを手掛けるという超売れ筋のプロデューサーです。ただし、別に売れているから彼を選んだわけではなさそうです。彼はポスト・パンクのリバイバルに一役かった人なんです。

 ポールにとってザ・ポップ・グループは憧れのバンドだったようで、一緒に仕事をすることに子どものように興奮しています。気持ちはよく分かります。ザ・ポップ・グループはそれほどカリスマ的なバンドでした。

 サウンドは昔からのファンには賛否両論あるようです。スターリンを模したシンプルなジャケット、「世界で最も裕福な85人の人が35億人の最も貧しい人々と同じ富を抱えている」という告発を記した同封されているポスト・カードなどは昔ながらの姿勢です。

 「俺にとってでさえ、このアルバムは衝撃だ。完全な想定外」とマークは語っていますが、このアルバムを聴いて、皮肉な意味ではなく、「想定外」と思う人は少ないと思います。現代的な音ですけれども、ポスト・パンクのプロトタイプに沿った気持ちの良い作品です。

 参加していないピッグバッグのビートとは異なり、クラブ・ミュージック的ではなくて、パンク/ニュー・ウェイブ期のそれですし、ダブ的な手法はなりを潜めているので、当時のザ・ポップ・グループ以上にポスト・パンク的です。

 プロデューサーにもバンドの面々にもプロトタイプが共有されていたのでしょう。それを共有している私などは、このアルバムは大そう楽しいです。ヘビメタやプログレに感じるのと同じような様式美を感じます。まさに大人のロックだと思います。

Citizen Zombie / The Pop Group (2015 Freaks R Us)