いつまでも元ザ・ポップ・グループという肩書がついてまわるマーク・スチュワートは、本格的に活動を再開すると、ポップ・グループの再結成を始め、実に精力的な活動を展開していきました。ほぼ同年代なだけに何となく気持ちが分かります。

 アルバムのブックレットに大きく「嗜好はある種の個人的な検閲である」と書いてあります。この言葉にははっとさせられました。身も蓋もない言い方をすると、食わず嫌いはいけませんよということですし、決して耳を閉ざすなというメッセージですが、言い方がうまいです。

 マークは「俺はまったく成長していない。いまだに四角い穴に丸いものを入れようとしているんだ」と語ります。ラディカルに音楽の既成概念を破壊しようとする姿勢は、個人的な検閲に引っかかると受け入れられない、ということを熟知しての言葉なのでした。

 しかし、このマークの言葉は本人の意図とは別に、音楽的にあまり昔と変わっていないことを表しています。まことに豪華な共演者たちの存在を考えあわせると、まるで同窓会のような気がしてきます。何ともほっとさせてくれるサウンドです。

 この作品の共同プロデューサーはキリング・ジョークのユースです。激しいギターはPILのキース・レヴィンですし、スリッツのテッサ・ポリット、レインコーツのジナ・バーチなど、ポスト・パンク期のアーティストが勢ぞろいです。涎がでそうです。

 さらに、ニューヨーク・パンクの生ける伝説リチャード・ヘルが参加していますし、「ルシファー・ライジング」や「スコピオ・ライジング」で有名な映像作家ケネス・アンガーまでテルミンで参加しています。若い頃を思い出して懐かしいです。

 もう少し時代が下るとプライマル・スクリームのボビー・ギレスピー、ジーザス・アンド・メリー・チェインのダグラス・ハート、マッシヴ・アタックのダディG、ストーン・ローゼズのマニ、さらにはドイツの変態バンド、デア・プランのアヒム・トロイの名前も見えます。

 少し毛色の変わったところではレゲエのリー・スクラッチ・ペリーの参加が見逃せません。ああ、やっぱりマーク・スチュワートだなと思わせる人選で、ほっとさせてくれます。他にもとにかく個性的でアクの強いアーティストばかりです。

 名前を羅列して申し訳ありませんが、こういう名前にぴんと来る人に向けた作品だと思われますのでしょうがありません。名前の挙がったバンドを聴いていた人が、その骨格はそのままに味付けが現代風になったサウンドに舌鼓を打つという作品です。

 私も彼らと共に歳を重ねてきたので、大そう気持ち良く聴けました。適度に過激な姿勢も心地よく、私もまだまだ若いぞという気になってきます。こういうサウンドが大人のロックというのではないでしょうか。ボウイの「ハーマイオニーへの手紙」もカバーされていますし。

 ポップ・グループのようなバンドの活躍のおかげで、四角い穴も大きく広がっていますから、丸いものも比較的すんなり入ってしまいます。昔取った杵柄は現代風に磨かれていて、収まるところに収まった感じです。

Politics Of Envy / Mark Stewart (2012 Future Noise Music)

(参照:「bounce342号」北爪啓之)