友だちというものはありがたいものです。ロバート・ワイアットは転落事故の後、さまざまな友人たちから暖かい手が差し伸べられました。ピンクロイドとソフト・マシーンは彼のためにコンサートを開きました。女優のジュリー・クリスティーにはマンションを買ってもらいました。

 そして、リチャード・ブランソンの企みによってソロ・コンサートが開かれました。1974年9月8日、7月に「ロック・ボトム」が発表されて2か月も経たないうちにロンドンのドルーリー・レーンにあるシアター・ロイヤルでのことです。ここはワイアットの母方の先祖が建築しています。

 メンバーは「ロック・ボトム」制作時の人々が中心です。ドラムにはゴングのローリー・アランとフロイドのニック・メイソン、ベースはソフツのヒュー・ホッパー、彼らがリズム部隊となって全体を引き締めています。

 そして、「チューブラー・ベルズ」がヒット中のマイク・オールドフィールド、ヘンリー・カウのフレッド・フリス、ハット・フィールド&・ザ・ノースのデイヴ・ステュワート、管楽器にモンゲジ・フェザとギャリー・ウィンド、さらにジュリー・ティペッツとイヴォール・カトラー。

 カンタベリー人脈、ヴァージン人脈を動員した、見る人が見れば豪華な布陣です。案の定、このコンサートは大きな話題を集め、英国の音楽誌NMEでは、全員が車いすに乗っている写真が表紙を飾りました。

 スタンディング・オヴェーションで迎えられたロバートは、「正直言って、ひどいことになるんじゃないかと思った」そうで、とにかく「やり過ごそう」としましたが、2曲目の「シー・ソング」のボーカルが賞賛を浴びたところあたりからリラックスして臨むことができたそうです。

 「ロック・ボトム」から全曲を披露した他、マッチング・モールの「インスタント・プッシー」と「サインド・カーテン」、ハット・フィールド&・ザ・ノースの「ケリックス」、シングル発売されるモンキーズの「アイム・ア・ビリーバー」とB面の「メモリーズ」とバランス良い選曲です。

 さらにジュリー・ティペッツのソロ「マインド・オブ・ア・チャイルド」が披露されていますが、これはロバートが「ロック・ボトム」のコンパニオンだとみなしているアルバム「サンセット・グロウ」からの曲です。何だか暖かい話ばかりです。

 ワイアットにとっても心温まる想い出のコンサートだったそうですが、長らくブートレッグでしか手に入らない幻の音源でした。それが2005年になって正規発売されて多くの人の目に届くようになりました。この傑作を長い間放っておくとは何と言うことでしょう。

 「ロック・ボトム」のサウンドはフワフワした天上あるいは水中の音でしたが、こちらはさすがにライブだけあって力強い地上の音が聞こえてきます。腕達者な一癖も二癖もあるメンバーに支えられて、初ソロ・コンサートとして実に素晴らしいものになりました。

 アンコールは「アイム・ア・ビリーバー」です。ワイアットは「ポップは技術的に複雑な音楽と同じく有効だ」という信念を持っていました。「使い捨て」のポップと「本物」のロックの間に違いなどないということです。実に素晴らしい姿勢です。

Theatre Royal Drury Lane 8th September 1974 / Robert Wyatt & Friends (Hannibal 2005)

参照:"Different Every Time"Marcus O'dair