ある種のドキュメンタリー作品です。フランク・ザッパとマザーズの「ツアー中の典型的な一日」と副題がついていて、録音されたツアー中の会話とライブ音源から構成されています。音源は1970年から1971年にかけて録音されたものです。

 1枚目は他愛ない会話が続きます。そして後半のライブ音源は、1971年6月6日のレイト・ショーです。このショーにはあのジョン・レノンとヨーコ・オノが参加したことで有名です。同じ音源がジョンの「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」ですでに発表されています。

 ザッパ先生からも発表するという取り決めでしたが、ここにようやく実現しました。同じ音源とは思えないくらいミックスが異なっています。曲名も違いますし、長さも随分違いますが、同じ音源です。20年近く間があいているせいでしょう、こちらは随分生生しい音です。

 ジョンのアルバムでは少し引いたような音になっていて、ポピュラー音楽らしい仕上がりになっています。ベースのパートを足したという話もあります。それに対してこちらはザッパ先生らしい音になっています。両者の資質の違いが現れているようで面白いです。

 ライブ音源は、6月5日、6日ニューヨークのフィルモア・イースト、8月7日カリフォルニアのポーリー・パヴィリオン、12月10日ロンドンのレインボー・シアター、いずれも1971年です。ボーカルにタートルズの二人を擁した、いわゆるタートル・マザーズの頃です。

 1枚目は超がつくスーパースターの参加があるわけですから、この作品の中心に座っていてしかるべきですが、なかなかどうして2枚目の方が曲者です。録音された会話の数々も一癖も二癖もあります。

 ちょうど「200モーテルズ」を制作していた頃で、バンド・メンバーにザッパ先生への不満が募っていた頃です。ボーカルのマーク・ヴォルマンもテープレコーダーを持ち歩いていて、ザッパのいないところでもメンバーの会話を録音しています。

 これが何とも言えません。ザッパへの不満をぶちまけるメンバーの声が録音されています。そして後半は「200モーテルズの真実の物語」となっていて、ジェフ・シモンズの脱退劇やら交代で入ったマーティン・リッカートのお話が描かれていきます。

 何とまあ生々しいことでしょう。1枚目ののほほんとした感じはあまりなく、「遊園地のキジルシども」の赤裸々な姿を伺い知ることができます。確かに「典型的な一日」であるのでしょう。ロック・バンドというのはなかなかに難しいものです。

 しかし、そればかりでCD1枚というのもさすがに気が引けたのでしょう。2枚目の音楽的な中心は30分にわたる「ビリー・ザ・マウンテン」です。フィルモア・イーストでのライブで、二日分が編集されている模様です。

 「LAからやって来たバンド」が初出ですが、シャープな音像のこちらの方が好きだという人も多いのではないでしょうか。何はともあれ、ドキュメンタリーながら、ちゃんと各面にしっかりと素晴らしい音源を入れてくれるザッパ先生は偉大です。

Playground Psychotics / Frank Zappa/Mothers (1992 Barking Pumpkin)