結構心待ちにしていたザーズの新作は、パリを題材にしたシャンソンのカバー集です。「古いシャンソンが歌ってみたかったの」とザーズは屈託のない笑顔で語っています。あっけらかんとしていて、まさに若さの特権です。

 取り上げられている楽曲は、エディット・ピアフ、イヴ・モンタン、モーリス・シュバリエなどのフランス勢に加えて、エラ・フィッツジェラルドやフランク・シナトラなどの楽曲です。いずれもパリが題材になっていて、2曲を除いて題名にパリが入っています。

 その2曲も、一曲は「シャンゼリゼ」ですから、よりピンポイントのパリですし、「二つの愛」はレビュー「うごめくパリ」の一曲ですから、パリパリしています。こういう切り口は面白いです。徹底できるだけの有名楽曲があるところがパリです。「東京」では足りなそうです。

 フランス勢としては、もう一人シャルル・アズナブールの「5月のパリが好き」を取り上げていて、これは本人とのデュエットになっています。アズナブールは大そうザーズが気にいって、「ザズナブール」というユニット名を考えてご満悦です。

 そして話題のもう一つは、クインシー・ジョーンズの参加です。ザーズの頼みを引き受けたクインシーが右腕ジョン・クレイトンとともにビッグ・バンドを率いてプロダクションに参加しています。クインシーもザーズはゲットー出身だと最大限の賛辞を送っています。

 爺たらしです。私は二人から見れば、ただのひよっ子ですが、世間的には爺の一角に近づいて来ていますから、ザーズにはぞっこんです。ちょっとハスキーな声もいいですし、何と言っても若さあふれる溌剌とした佇まいが最高です。

 本作品は、クインシーのビッグ・バンド・パートと、それ以外のパートに分かれています。ビッグ・バンドでは、アズナブールや、カナダの歌手ニッキー・ヤノフスキーとのデュエットも楽しめます。ニッキーとのスキャット対決は作品の見どころの一つとなっています。

 クインシーとクレイトンに支えられて自由奔放に跳ね回るザーズは素敵です。ビッグ・バンドのゴージャスなサウンドに、「ゴスペルかと思った」とクレイトンに言わせたザーズの声が見事にマッチしています。

 一方、コンボの方は、付属のDVDを見ると誰かの家で演奏しているような風景です。「メロディーだけは守った」と語っている通り、こちらも「何でもあり」の演奏が繰り広げられていて、ザーズのマヌーシュ・スウィングも聴けますし、パリの象徴アコーディオンもかっこいい。

 「アイ・ラヴ・パリス」はクインシー・パートですが、日本盤ではコンボもボーナスで収録されています。この二つを聴き比べると、どちらも捨てがたいとしか言いようがありません。キャバレー文化のパリと、大道芸人のパリ。それぞれに魅力的です。

 私はザーズの大ファンなので、このアルバムは嬉しい限りです。伝統的なシャンソンのファンの中には眉を顰める人もいるようですが、御大シャルル・アズナブールの歌唱指導を受けた上に、お墨付きが付いていますから問題ない、と言ってあげたいところです。

Paris / Zaz (2014 Play On)