ジャケットを見て、ヘタウマだと思った方、残念でした。これはピカソによるアルチュール・ランボーの肖像画です。チラ見をすると何ですが、じっくり見つめると只者ではないことが良く分かります。文字はまあ普通ですけれども。

 リップ・リグ&パニックのセカンド・アルバムはまたまた45回転の12インチ盤の2枚組です。いかに彼らがDJフレンドリーだったかが分かるというものです。こだわりの仕様ですが、ヴァージン・レコードの忍耐もここまででした。

 メンバーは前作と同じですけれども、今作の最大の特徴はネネ・チェリーの義父ドン・チェリーの全面的な参加です。何と15曲中6曲で楽しげにトランペットを吹いています。日本公演にも参加したそうですから、大そう気にいっていたということでしょう。

 リップ・リグ&パニックの名前の由来は伝説のジャズマン、ローランド・カークの65年作品のタイトルに由来します。カークが語るところによると、リップは、アメリカの浦島太郎リップ・ヴァン・ウィンクルのリップです。

 リグはライゴー・モーティス、すなわち死後硬直の短縮版、パニックは理解できない音楽を聴いた時に人々が陥る状態ということです。一見、訳が分かりませんけれども、何となく納得のいく話でもあります。

 そんな由来の名前を付けた彼らは、二作目にしてさらに自由度を増しました。ギターのギャレス・セイガーによれば、デレク・ベイリーのコレクティブと言いますからカンパニーだと思いますが、それに影響を受けたそうです。要するにメンバー不定の即興演奏集団です。

 それを聴くと、このアルバムのこともすとんと腑に落ちるというものです。メンバー4人にネネ・チェリー、そして多数のゲストが入ったり入らなかったりと、歌によって構成が異なります。メンバーですら演奏していない曲もある模様です。

 さらに即興を重視していますから、曲の構造も不定です。ボーカル曲もあれば、ピアノ中心のフリー・ジャズ的な楽曲もあり、さらには構造の判然としない小品もあります。同じことはやらないぞという覚悟のほどが見てとれます。

 しかし、だからと言ってジャズかと言えば、そうではありません。やはりショーン・オリバーのベースとブルース・スミスのドラムによるリズム隊が背骨を構成していて、彼らの「ネイティヴなダンス・ビート」が結局は耳に残ります。かなりカッコいいです。

 その下地の上に、「スポーティーなファンク感覚」の上物が乗っかるわけで、捉えどころがないようであるような面白い作品です。CDで通して聴くよりも、12インチ2枚組をひっくり返しながら聴くのに適していそうです。

 ボーナスで収められている彼ら最大のヒット曲「ユー・アー・マイ・カインド・オブ・クライメート」はアルバム曲とは随分違う分かりやすいファンク・ポップです。これで押し通した作品も一枚作って欲しかったと思いますがどうでしょう。

I Am Cold / Rig Rig & Panic (1982 Virgin)