スキャンしても、かろうじてジャケットに書いてある「5」という文字が見えます。黒地に黒というのはなかなかに悪魔的な気もしますが、ユーモラスと言えばユーモラス。要するにいかようにも解釈できるということです。気にするなと言うことかもしれません。

 ついにロバート・ワイアットが脱退してしまいました。あれだけ居心地が悪そうだったのに、ロバートには大ショックだったそうで、自ら命を絶とうとさえしてしまいます。中学校からの友だちバンドでしたから、喧嘩をしながらも絆は深かったのでしょう。

 残ったマイク・ラトリッジとヒュー・ホッパーの二人は結果的にロバートを追い出したわけですが、やはり中学バンドの絆は深く、今度は後発の異分子エルトン・ディーンや後任のドラマーと反りが合わなくなっていきます。バンドというのは面白いものです。

 この作品では、ワイアットの後任として、ドラムにはフィル・ハワードが加入しました。彼はエルトンのリーダー・グループのジャスト・アズのドラマーでした。しかし、彼はA面のみ参加で、B面にはジョン・マーシャルが参加しています。

 マーシャルはニュークリアスという英国ジャズ・ロック・バンドからの参加で、こちらの面にはベースで同じバンドからレイ・バビントンが参加しています。どちらもエルトン人脈と思われ、中学組と転校組のパワー・バランスが微妙です。

 音楽的には、ラトリッジ・ホッパー組が構築的な姿勢、即ちちゃんと作曲して臨もうという姿勢と、エルトンのフリー・ジャズ的インプロビゼーション重視姿勢との相克ということになります。こういう時には緊張感が高まるものです。

 前作に引き続いてボーカルはなし。今回は帯も「フリー・ジャズ的アプローチが色濃い完成度の高い傑作」と書いている上に、「ソフト・マシーンの作品の中で最もジャズ寄りに仕上がっています」と素直です。

 裏を返せば、「ロック色をベースにしながらも、しっかりした演奏力によりフリー・ジャズ的アプローチをみせた傑作です」となっている上に、ジャンルの欄はあっさり「ロック」、要は担当者も前作での迷いが吹っ切れて、これはジャズ色の濃いロックであると思いきったようです。

 思いのほか、ワイアットのドラムがジャズ的であったことの証明かもしれません。今回のドラマー二人は比較的ロック寄りだと思います。ワイアットよりもロック的。エルトン・ディーンのホーンは気持ち良くジャズやっていますが、リズムはさほどジャズではない。

 この当時、彼らはアメリカで、キース・ジャレットのいた頃のマイルス・デイヴィス・バンドや、ハービー・ハンコック、マハヴィシュヌ・オーケストラなどと共演もしており、英国ジャズの代表と見なされていた形跡もあります。

 力強いジャズ・ロック・サウンドが展開された作品ですが、ソフト・マシーンと聞いてケヴィンの頃を思い出す人には、まるでソフト・マシーン的ではない作品です。これはソフト・マシーン11号におけるピーク作品だと言えます。

5 / Soft Machine (1972 CBS)