「好きにならずにいられない」。何という素晴らしいタイトルでしょう。言わずもがなですが、これは映画「ブルー・ハワイ」で、エルヴィス・プレスリーが歌って有名になった曲です。1961年の映画ですから、往年の名曲と言ってよいでしょう。

 UB40はカバー曲の解釈に定評のある人たちですが、この曲は見事にはまりました。シャロン・ストーン主演の映画「硝子の塔」に使用されたことも手伝って、全米1位の座を7週も獲得した他、英国を始めヨーロッパ諸国でも軒並み1位となりました。

 1993年当時のイギリスではとにかく四六時中この曲がかかっていた印象があります。文句なく彼らの最大のヒット曲です。それにつられてアルバムも大ヒットし、全世界で1000万枚に迫る売り上げを記録するモンスターアルバムになっています。

 アルバムの原題は「プロミセス・アンド・ライズ」で、収録曲のタイトルから取られていますが、邦題は「好きにならずにいられない」。収録曲のタイトルという点では同じですが、よりヒットした方を使うという親切な仕様でした。

 カバーに定評があると申しましたが、このアルバムでのカバー曲は「好きにならずにいられない」の一曲だけです。後はオリジナルで固めているわけで、カバー集でのヒットへの反発心がむらむらと湧き上がったのではないかと思います。

 サウンドはとてもポップな調子のレゲエですから、レゲエ原理主義者の評判はあまりよくありません。決してレゲエ風ポップではなくて、あくまでポップ調のレゲエなんですが、ホワイト・レゲエにこだわる人々には受け入れがたいのでしょう。

 しかし、リード・ボーカルのアリ・キャンベルは、歌手としてのライバルにマイケル・ジャクソンを挙げているくらいですから、のんきなものです。二人は同い年なんだそうで、アリはマイケルの歌なら全曲歌えるほど聴き込んでいます。

 あくまで自然体でレゲエをやっているUB40ですから、そんな一部の評判など何のその、堂々と我が道を行っています。サウンドは分かりやすくなっていますけれども、メッセージは相変わらず健在です。

 冒頭の「セ・ラ・ヴィ」は、ギグ終了後に観客の女性の一人に、誰かが自分の子供を20ドルで売っているという現実を曲にしてほしいと懇願されたことから制作された曲です。重苦しい現実を♪これが人生さ♪と歌っています。

 そのほかの曲もいずれもレゲエの基本は外しておらず、メッセージ性も高い。しかし、適度にポップな感じを受けるところが彼ららしいです。アリ・キャンベルの歌声がとてもレゲエ的なところもポイントが高いです。レゲエと聞いて思い浮かぶハスキーな太い声です。

 このアルバムが発表された頃には、どんどん若いレゲエのアーティストが表舞台に登場してきた時期にあたります。その中で、ベテランの域に達したUB40が存在を見事にアピールした快作です。もはやレゲエはメインストリームにあることを高らかに宣言したアルバムです。

Promises and Lies / UB40 (1993 Virgin)