このアルバムの登場はちょっとした事件でした。UB40は人種混合型ブリティッシュ・レゲエのバンドで、それがいきなり英国チャートの2位にまで上がるデビュー・アルバムを発表したんです。遠い日本にいた私にはよく状況が呑み込めていませんでした。

 当時の英国ロック界は、パンクに続くニュー・ウェイブの時代で、音楽的にはあらゆる実験が許されていましたから、このバンドもわざわざレゲエを取り入れたサウンドを作って、成功を収めたのだろうと思っていました。

 しかし、事態はかなり違いました。英国には西インド諸島からの移民の数が多く、彼らの間ではブリティッシュ・レゲエのシーンが存在していました。英国ネイティブの住民、特に労働者階級にとっては、そうしたシーンは身近な存在だったようです。

 英国にとってのレゲエは、いわばアメリカにおけるブルースのような存在だったのではないかと思います。そうであったとすれば、UB40は何も奇を衒ってレゲエをやっているのではなく、子どもの頃から身近にあったレゲエをごく自然に選択したに過ぎないことになります。

 実際、「1968年頃から73年頃の学校に行っていた時代は、ごく普通かちょっと貧しい階級のキッズは、黒人も白人もレゲエとソウルが大好きだった」とトロージャンズのギャズ・メイオールが語っています。ジョン・ライドンも同じようなことを言ってました。

 UB40は英国バーミンガムで結成された8人組です。結成当時、多くのメンバーは失業中で、失業給付金をもらっていました。その失業給付金申請フォームの通称がUB40で、それがバンド名になり、フォームそのものはジャケットに使われました。

 しかもご丁寧に「サイニング・オフ」、すなわち却下の印が押されています。このジャケットはこれぞパンクという社会的なメッセージを強烈に伝えるジャケットでした。実に効果的なジャケット・アートです。

 彼らは結成当時はほとんど楽器が出来なかったらしいですが、1年間ひたすら練習を重ね、満を持して、レコード・デビューすると、たちまち話題となり、3枚のシングルを経て、このアルバムでデビューを果たします。

 今でも彼らの最高傑作と呼ばれることの多い作品で、英国ではチャート2位に入ったのみならず、トップ100に71週も留まるという大ヒットになっています。社会を告発するメッセージを込めたストイックなレゲエがここまで大ヒットする事態が当時はよく呑み込めませんでした。

 レゲエが主流の一つになっている今から振り返ってみれば、不思議でも何でもありませんが、当時は英国音楽界の不思議さを垣間見た気がしたものです。まだまだプログレの光が射していた時代でしたから。

 ともあれ、本場ジャマイカのレゲエに比べると、やはりブリティッシュ・ロックを血肉化している人たちのレゲエですから、ポップに流れていなくても聴きやすいです。ストイックなブリティッシュ・レゲエ・アルバムとして傑作の地位を不動にしています。

Signing Off / UB40 (1980 Virgin)