レゲエが世界に羽ばたくきっかけとなった作品です。「ボブ・マーリーと並ぶレゲエ界最高のレジェンド、ジミー・クリフ」が主演した映画のサウンド・トラックとして発表され、レゲエの魅力を世界に知らしめました。

 映画を見ていないので偉そうなことは言えませんが、ジミー・クリフが主演した同名映画はジャマイカでは暴力的だとして上映を禁止されたという曰くつきの映画です。警官を5人も撃ち殺し、島を逃げ回るという恐ろしいお話です。

 レゲエは今では世界のポピュラー音楽シーンに確固たる地位を築いていますが、この頃はまだまだジャマイカのローカル音楽に過ぎませんでした。それをこの映画が変えていきます。ジミー・クリフは世界的なスターになり、タイトル曲は空前の大ヒットとなりました。

 レゲエはラガマフィン・スタイルやらダンスホール・レゲエやらさまざまな姿に展開していきます。暴力的で過激な音もどんどん出てきますから、このアルバムにあるようなルーツ・レゲエ的なシンプルな音楽を聴くと拍子抜けするかもしれません。

 そんな映画のサントラだとは思えないほど、「輝く太陽と、真っ青なカリブの海」が見えてきます。ゆったりしたレゲエのリズムに乗ってシンプルな演奏が続いていきます。何とも気持ちの良い時間が過ぎていくような気がします。

 しかし、見かけの表情に惑わされてはいけません。過激なものものしい音こそありませんが、奥底を流れる闘いの精神はむしろこちらにこそ横溢しているというべきです。ちょうどロックで言えば50年代のロックン・ロールの精神に近いです。

 このサントラには全部で12曲、そのうちジミー・クリフが歌っているのが6曲、そのうち映画で重要な役割を果たす「ザ・ハーダー・ゼイ・カム」と「ユー・キャン・ゲット・イット」は2回出てきますから、実質4曲です。

 レゲエ原理主義者にはジミーは「ただのポップ・シンガーだ」という意見があるようです。ジミーの声は高くて綺麗なので、確かにレゲエ界ではあまり見ないスタイルです。しかし、力強くて美しい声です。特に「遙かなる河」などは鳥肌ものです。

 半分しか歌っていないのに、主演もしたからか、アルバムのアーティスト・クレジットはジミー・クリフ単独となっています。それほど存在感が大きいということです。彼のアルバムだというしかありません。

 他のミュージシャンが大したことがないというわけではありません。どれもこれもぱんぱんにレゲエの魅力が溢れています。メロディアンズの「バビロン川のほとりで」などはとても有名な曲ですし、全体にジミーよりもレゲエ、レゲエしています。

 「レゲエの入門盤としても最適な一枚」と言われています。ジミーのクリアな歌声に誘われて、他のバンドの泥臭いサウンドにも慣れてくると、だんだんレゲエを受け止める素地が出来てきます。そうなるともう抜けられません。いいアルバムです。

The Harder They Come / Jimmy Cliff (1972 Island)