高校生の時、勉強の合間に聴いていたラジオから、「胸につのる想い」が流れてきました。静かなアコースティック・ギターのイントロに続いて、ロッドのボーカルが入ってくる冒頭部分がとても素敵でした。この曲はとてもラジオに似合います。ふと出会うと最高です。

 ロッド・スチュワートの米国での大活躍は続きます。前作「ナイト・オン・ザ・タウン」からは「今夜決めよう」が大ヒットしていて、ロッドはますます調子に乗ってきました。そして、ついに自らのバンドを結成します。

 LP帯も調子に乗っています。「ロック史上最高のヴォーカリスト、そして世界最大のスターが前代未聞の強力なグループを率いて大あばれ!」。明らかにインフレです。さらに調子にのって、「フェイセス時代よりさらにパワー・アップ!!トリプル・ギターのド迫力!」。

 この作品はロッドが久しぶりに自分のバンドをバックに録音したアルバムです。アメリカでの前2作はそうそうたるスタジオ・ミュージシャンばかりでしたから、この点は大きな違いです。総勢はロッドを含めて7人、ギターは三人ですが、トリプル・ギター曲はわずかです。

 意外なことにイギリス人が多いところもまた面白いです。典型的なのはギターの中心、ジム・クリーガンです。彼はコックニー・レベルというディープな英国バンド出身です。マッスル・ショールズとは対極にある生い立ちです。

 有名どころでは何と言ってもカーマイン・アピスでしょう。ヴァニラ・ファッジやベック・ボガート&アピスなどを渡り歩いたスーパー・ドラマーの一人です。彼の影響で、ロッドはヴァニラ・ファッジの代表曲「キープ・ミー・ハンギン・オン」をこのアルバムでカバーしています。

 さすがに「世界最大のスター」ですから、ゲスト陣も豪華です。ニッキー・ホプキンス、デヴィッド・フォスター、ジョン・メイオール、スティーヴ・クロッパーなどの米国の有名どころが参加しています。ただ、確かに豪華ですが、何だか中途半端感もあります。

 邦題はロッドがサッカー好きであることから付けられました。大たい「胸につのる想い」の中で、女性を♪君はセルティック、君はユナイテッド♪と褒めているほどです。当時はサッカーはまだ日本では今ほど人気はなく、マンUのことだと言われても何のことだかさっぱりでした。

 このアルバムはPVが調子に乗っていた「ホット・レッグス」に始まり、全部で8曲、それぞれが充実した曲ばかりの傑作です。やはり自分のバンドを持ったことが大きいのだと思います。フェイセズへのこだわりの強さもロッドのバンド体質の表れだったのでしょう。

 ロッドの乾いたしゃがれ声はとても個性的で魅力的であることは間違いありません。しかし、声の特徴を除くと、意外に正統派です。さほど個性的でもないので、スタジオ・ミュージシャンばかりの中では少々居心地が悪いのではないかと思います。

 この作品でのロッドはとても生き生きしています。やはりバンドの一員として、仲間みんなで音楽を仕上げていくことが好きなのでしょう。しかし、どんどん音楽以外の話題が膨らんできた頃ですから、この後もどんどん調子に乗り過ぎていきます。

Foot Loose & Fancy Free / Rod Stewart (1977 Warner Bros.)