CDサイズに縮小してしまうと何とも意味が分からない変形ジャケットです。フェイセズ関係者は当時変形ジャケットにかなりはまっていました。恐らくウィスキーでしょう、オン・ザ・ロックのグラスは琥珀色で素敵です。LPサイズだと圧巻でしたけれども残念です。

 ロッド・スチュワートのマーキュリー・レコード時代のベスト・アルバムです。ロッドのソロ本格デビューは1970年のことで、その後、このアルバムが発表されるまで、わずかに3年、アルバムは4枚です。早すぎるベスト盤とも言えます。

 恐らくそれは彼の3枚目と4枚目にアルバムが大ヒットしたので、ヒットしなかった1枚目と2枚目をもっと売っていこうとのレコード会社の戦略だったのでしょう。このアルバムだけの特典はザ・フーの「ピンボールの魔術師」のカバーのみです。

 発表当時のロッドはフェイセズとの二足のわらじで、なかなか難しい状況にあったようです。ソロとフェイセズでレーベルが違ったことがトラブルの原因であろうと思います。そしてソロがフェイセズを凌駕する売り上げを記録したため、さらに話がややこしくなりました。

 これはベスト盤ですから、参加ミュージシャンのクレジットはありませんが、バッキングはフェイセズの連中が中心になっていたりします。さらにややこしいです。ただし、その割にはそこまでフェイセズの色があるわけではありません。

 しかし、ここでのロッド・スチュワートは英国風味満載です。後のスーパースター街道しか知らない人には驚きかもしれません。派手というより地味です。大ヒットした「マギー・メイ」を聴くとよく分かります。

 この曲はそもそも「エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー」からのシングル第一弾「リーズン・トゥ・ビリーヴ」のB面曲でした。ロッドは「あまりに単調なイメージ」だったので、「アルバムに入れるのも辞めようと思っていた」ものです。

 淡々と歌われていくこの歌は、噛めば噛むほど味が出てくるという曲の典型です。単調なリズムですし、メロディーも淡々としていますが、そこがいい。アメリカ人がこういう曲を好むというのはやや意外ですが、何ともブリティッシュ・トラッド風味の佳曲です。

 ロッドは柳の下の泥鰌じゃないですが、続編となる「ユー・ウェアイット・ウェル」を同じ作者マーティン・キッティントンと共作します。マーティンはこの2曲で名を残したイギリス人ギタリストです。この曲もお約束通りヒットしています。

 ストーンズやサム・クック、ザ・フーのカバーなども収録されていて、ロッドが曲作りに係わったのは5曲のみです。この頃からロッド・スチュワートはシンガーでした。後にカバー集で大ヒットを飛ばす素地は最初からありました。

 スーパースターとして調子に乗ってくる前の、謙虚な姿勢が何とも清々しいです。若々しいシンガーの魅力に溢れた作品だと思います。大西洋のこちら側に残ってキャリアを追及する道もあったのではないかと思わないではありません。

Sing It Again Rod / Rod Stewart (1973 Mercury)