だいぶ前の話ですが、パリの街を幼い息子を肩車して歩いておりますと、よそ見をした息子が後ろに倒れ、逆さ吊りになってしまったことがありました。しっかり足を持っていたので大丈夫でしたが、後ろを歩いていたパリのマダムが驚いて「ウー・ララ」とおっしゃいました。

 ちょっと脱力感のある驚きを表現する言葉、ウーララの使い方の教科書です。LPの帯の場合は、「ジャケットの上を押すと何と何と!”ウー・ラ・ラ”」とあります。これも正しいですけれども、私の体験の方がちょっと勝っている気がします。

 特殊ギミック・ジャケットを再現したせいで、値段は高いですが、大いに満足です。フェイセズの4枚目、最後のスタジオ作品は、やはりこの紳士のスケベ面がないと締りません。フェイセズのユーモラスなセンスが込められたジャケットです。

 英国では初のナンバー1アルバムになりました。ロッド・スチュワートの人気が沸騰していた時期ですから、そのせいもあると思われますが、このアルバムはロッドのアルバムではありません。フェイセズのアルバムに違いありませんが、これはロニー・レインのアルバムです。

 ソロで忙しいロッドはなかなかスタジオに現れず、彼がやってきた時にはすでにロニーが主導してアルバムの原型が出来ていました。ロッドは随分気にいらなかったようで、発売直後のインタビューでは「最悪のアルバムだ」と言い切ってしまいました。

 そうなるとバンドは原型をとどめるわけにはいかず、結局、ロニー・レインは脱退してしまいます。この後、我らが山内テツが加わって、活動しますが、結局スタジオ作を残すことなく、解散することになっていきます。

 このアルバムは前作よりもロッドが目立ちます。前作はロッドとロニーの個性がぶつかりあってフェイセズ・サウンドが形作られていました。逆説的ですが、今回はロニー色で統一されていて、ロニーがロッドの歌をプロデュースしているような感触です。目立つわけです。

 そして前作にあったストーンズの弟バンド色は逆に薄いです。ロニーはフォークやトラッドなどの影響を受けたサウンドを展開していて、激しいロック調の曲はパブ・ロック的なにおいがします。ストーンズとはちょっと違う。

 前作のようなルーズな感覚も少し後退して、あくまで相対的な話ですが、きちんとしてきました。酔いどれバンドでありながら、今回は安心して酔っぱらっているわけにはいかないぞという緊張感があったのでしょう。

 ヒットしたのは「いとしのシンディ」、ロッドの歌が映える曲ですがソロっぽい。それもロニーの企みでしょう。ところで、原題は「シンディ・インシデンタリー」です。マツコ・デラックスと同じ種類の語の並びです。変なことが気になってしまいました。

 最後に収録された標題曲はロン・ウッドが歌っています。ロニー・レインもロッドも後にレコーディングする名曲です。この曲に象徴されるように、前作よりも完成度は低いにも係わらず、とても愛すべきアルバムです。私は文句なくこのアルバムがフェイセズの中では一番です。

Ooh La La / Faces (1973 Warner Bros)