フェイセズは、スモール・フェイセズとジェフ・ベック・グループからそれぞれのリーダーを除いたメンバーが集まって出来たバンドです。そう書くと何だか情けないバンドのようにも思いますが、大ヒットもしましたし、解散後も皆さん大活躍される立派なバンドです。

 このアルバムは彼らの3枚目のアルバムにして、代表作となった名盤です。英米でトップ10ヒットとなりましたし、フェイセズ最大のヒット曲「ステイ・ウィズ・ミー」も含まれています。ファンの間で人気投票をすると1位になるのではないかと思われます。

 LPを再現した帯には、「イギリスが生んだ、世界最大のヴォーカリスト、ロッド・スチュワート率いるフェイセズ」と書いてあります。何とも悩ましい宣伝文句です。確かにフェイセズはロッドがボーカルをとっているバンドですが...。

 フェイセズには、確かに説明不要のスーパースターとなるロッド・スチュワート、ローリング・ストーンズに入るウッディーことロン・ウッド、ザ・フーに入るケニー・ロジャーズがいます。しかし、同時にロニー・レインもイアン・マクレガンもいるんです。

 とりわけロニー・レインはこのアルバムでも作曲者として2曲単独で、1曲はマクレガンと共作で、1曲はロッドとウッディーとの共作でクレジットされている上に、2曲でリード・ボーカルをとっています。

 フェイセズは、このロッド・ウッディー組とレイン・マクレガン組の絶妙なバランスの上に立っていたバンドです。それも、どうしてもちゃらちゃらしたイメージがあるロッドよりも、渋いボーカルのロニー・レインの方が好きだと言った方がカッコいいくらいです。

 しかし、このアルバムが発表された頃には、すでにロッドが「マギー・メイ」で英米で1位になっていたために、先のLP帯のような言い方になってしまうわけです。こうなるとバンドも長続きしないことは誰の目にも明らかとなります。

 大変残念なことです。フェイセズは良いバンドでした。彼らは酔いどれバンドとして有名でもありました。大酒飲みのバンドで、酔っぱらったようなルーズな感覚のブリティッシュ・ロックが絶妙でした。アメリカンとは確実に感覚が異なるブリティッシュです。

 そのせいで、「ストーンズの弟バンド」などと揶揄されもしました。確かに音は近いのですけれども、それはロニー・ウッドのストーンズ・サウンドへの貢献の大きさともとれます。兄弟に共通するウッディーのずるずるしたギターを聴いていると幸せです。

 ロニー・レインとロッド・スチュワートのボーカルのタイプは全然違います。曲調も違いますから、フェイセズのアルバムを聴くと二つのバンドのアルバムを聴いているような気になります。よく一緒にやっていたものだと思います。

 しかし、持ち味の違うボーカルが重なる6曲目の「デブリ」などはゾクゾクします。やはりバンドとしてのまとまりはあるんです。後にロッド・スチュアートが再結成を考えるのも分かります。ブリティッシュ・ロックの一つの典型となる素晴らしいアルバムです。

A Nod's As Good As A Wink... To A Blind Horse / Faces (1971 Warner Bros)