アルファ・レコードに設けられたYENレーベルは、YMOの面々を中心に海外進出を企むたくましいレーベルでした。日本から世界へ、産業界ではもはや当たり前でしたが、音楽の世界でははなはだ新しい試みでした。

 この作品は、1982年にYENレーベルから発表されたサンディー&ザ・サンセッツのアルバムです。このバンドは久保田麻琴のバンドです。「夕焼け楽団」が改名して「サンセッツ」となり、さらに「サンディー&ザ・サンセッツ」となったという変遷を経ました。

 もともとバック・ボーカリストとして参加していたサンディーをメイン・ボーカルに抜擢して再始動したのが、サンディー&ザ・サンセッツということです。ウィキペディア情報だと、オーストラリアの新聞の誤報道でバンド名にサンディー&がついたそうです。

 このアルバムの私にとっての着目点は何と言ってもデヴィッド・シルヴィアンの参加でした。ジャパンとして来日した時にデヴィッドが彼らのライブを見て、大いに気に入ったことから、アルバムへの参加が実現しました。ジャパンの欧州、アジア・ツアーの前座もやったそうです。

 結局、デヴィッドは3曲で作詞者としてクレジットされている他に、ボーカルで演奏に参加もしています。これが何とも素晴らしくピッタリと息があっています。デヴィッドに引っ張られるというよりも、むしろ彼をこちら側に引き寄せています。

 サウンドは、YENレーベルですから、世界を視野に入れています。基本的には当時の最先端サウンド、すなわちニュー・ウェイブ系のロック・サウンドですけれども、アジア的な要素が色濃く反映されていて、そこが彼らの特徴になっています。

 例えば、「じんじろげ」なんていう中村八大の曲がカバーされています。これが何とも東南アジアっぽい音に聞こえます。日本は戦後は引きこもってしまいましたが、戦争まではかなりアジア大の世界の住人でしたから、この頃の歌にはアジア色が強いです。

 このバンドは、英語圏オーストラリアを経て、東南アジア諸国で日本を凌ぐ人気を勝ち得ることに成功しました。東南アジアにはインドネシアを筆頭に豊かな大衆音楽の世界が広がっていますから、そこで認められたということは、彼らには汎アジア的な感性があったのでしょう。

 サンディーはスペイン人と日本人のハーフで、幼い頃からハワイで生活するというコスモポリタンな人です。後にハワイアンのアルバムを制作します。美しい艶のある声で、どこか異国情緒が自然に漂ってきます。このボーカルを得たことで方向が定まったのでしょう。

 夕焼け楽団はレイドバックした感覚でしたけれども、サンディーのボーカルが入った途端にぴしっとしまったようなサウンドになるところが面白いです。久保田麻琴やデヴィッド・シルヴィアンなどもボーカルをとりますが、サンディーと一緒だとしっかりしますね。

 冒頭の「ドリーム・オブ・イミグランツ」が素晴らしいです。遠く離れた異国で暮らす移民の夢、というコンセプトはアルバム全体を象徴するようです。デヴィッドのバンブー趣味もアルバムに色を添えて、いつまでも色褪せない名作になりました。

Immigrants / Sandii & The Sunsetz (1982 YEN)