アミタ・バッチャンはボリウッドの誇るインド史上最大のスーパースターです。通称、ビッグB、インドの新聞による世論調査でも、インドを代表する人物として、堂々二位にランクされたことがあります。ちなみに一位はマハトマ・ガンディーでした。凄い人です。

 ハリウッドの映画俳優とは比較にならないレベルでのスーパースターです。「大統領に」という声も絶えません。若い頃からスーパースターでしたが、必ずしも平たんな道のりではなく、紆余曲折を経ている彼は、さらに強くなって、今は高いところで安泰です。

 1942年生まれですから、もう結構なお歳ですが、相変わらずの男前ぶりで、映画に色を添えるカメオ出演もとても多いです。息子アビシェークには、ハリウッドも認める超美人女優アイシュワリヤ・ライが嫁に来て、今や家族で大人気です。

 インド映画に歌は欠かせませんが、そのほとんどはプレイバック・シンガーが歌います。俳優自らが歌うことはほとんどありません。しかし、アミタ・バッチャンは比較的唄う人です。もともと声がとても渋くて、他人の映画にナレーターとして友情出演することも多いくらいですから。

  この作品は、彼のニックネームの一つである「アビー・ベイビー」を冠した企画盤です。音楽を担当しているのはバリー・サグー。彼は、インド生まれですが、英国で生まれ育った在英インド人です。音楽プロデューサーとして「ベッカムに恋して」のサントラで有名です。

 バリーは過去のボリウッド作品のリミックスも手掛けていて、クラブ方面でも活躍しています。そのためか、この作品でもアミ タ・バッチャンの過去の出演作品から3曲取り上げています。ただし、いずれも新たに録音し直されていて、リミックスというわけではありません。

 オリジナル曲は、アミタ・バッチャンや彼のお父さんで高名なヒンディー文学者であるハリヴァンシュ・ライ・バッチャンの詩にサグーが曲をつけたものです。そして、女声ボーカルを除いて、ボーカルはすべてバッチャン本人です。

 私がこの作品に出会ったのはMTVでした。出張先でぼーっと眺めていて、突然、耳と目を奪われたのが、この作品の中の「エエル・ビル・ファッテ」と「カビー・カビー」のPVでした。前者はとてもユーモラスなゆったりめのバングラ・ヒップホップです。

 後者は凄みのある語りをフィーチャーしたアンビエント・テクノになっています。映像もアンビエントです。見事に料理してありますけれども、実は私はこの曲のオリジナルが大好きなので、残念ながらオリジナルに軍配を上げてしまいますが。

 アルバムを聴くと、他の曲もエイジアン・マッシブなサウンドに、渋いけれどもちょっとべちょっとしたバッチャンのボー カルがのっかるとても良質な作品ばかりです。バリーの作り出すトラックはインド的リズムのクラブ・ミュージックとして大変優れたものだと思います。

 適度にインドで、適度にはじけていて素晴らしいのですが、この作品は特異な位置を占めるようで、あまり同工異曲なものがないのが寂しいところです。なお、CDの最後に他の作品の宣伝が入っているのはご愛嬌と言えましょう。

Aby Baby / Amitabh Bachchan (1996 Big B)