明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

 お正月らしく、今日はチンドン屋さんと参りましょう。チンドン屋さんは日本の誇るワールド・ミュージックです。昔ほどチンドン屋さんの姿を見かけることはなくなりましたが、富山市では1955年以来、全国チンドン・コンクールが開催されて盛況を博しています。現代にもしっかり生きています。

 チンドン屋さんの始まりは時代をさかのぼること江戸時代の弘化2年のことだとされています。東京から大阪に流れていった飴勝という飴売りが、千日前で拍子木と鈴を鳴らして飴を売りさばいたのが元祖です。くいだおれ人形は正しい場所に立っているわけです。

 一気に人数が膨らんだのは、昭和四年に映画が無声からトーキーに代わった時だそうで、職を失った楽士さんたちがチンドン業界になだれ込みました。全盛期は戦後復興から高度経済成長期のことで、当時、ちんどん業界に携わる人の数は2000人を越えたそうです。

 アダチ宣伝社は、福岡の有限会社でチンドンによる宣伝を生業とされている会社です。親方の安達ひでやさんは、イカ天にも出たことがある「たけのうちカルテット」というバンドで活動した後、1994年にアダチ宣伝社を立ち上げたそうです。

 アダチ宣伝社の実力は折り紙付きで、富山のチンドン・コンクールでも何度も優勝しています。このCDはそんな彼らのチンドンを記録した作品で、極上の味わいを醸し出しています。残念ながら廃盤となっていて、中古市場ではプレミアムが付いています。

 チンドンは、締太鼓と平太鼓に鉦という三種類の打楽器を組み合わせた楽器です。チンとドンという音がするからチンドンという何とも直截な命名です。これにゴロスと呼ばれる大太鼓を組み合わせてリズム・セクションの完成となります。

 メロディー楽器は何でもよくて、ここではトランペット、サックス、アコーディオンにバンジョーや三味線、さらには鉄琴などが使われています。唯一の制約は、当たり前ですが、演奏しながら歩けることです。自由度が高いです。

 演奏する楽曲も実は何でもよいわけで、洋楽ももちろんありです。彼らのレパートリーにはドアーズもあります。もともと無声映画の楽士さんが参入してきた時点で西洋音楽との折衷が起こったと言われていますから筋金入りです。これまた自由度が極めて大きいです。

 この作品には伝統的な日本の楽曲を選んで収録しています。一つのまとまりは「お囃子」と呼ばれるチンドン屋独自の楽曲群。毎日仕事初めに演奏するという「竹に雀」、仕事終わりに演奏する「四丁目」などで、まさにチンドン屋と聴いて思い浮かべる曲ばかりです。

 次は、「黒田節」、「炭坑節」、「長崎ぶらぶら節」などの民謡、もう一つのグループは「軍艦マーチ」やサーカスのジンタ「美しき天然」や「オッペケペー節」などの流行歌です。どれも生き生きしていて素晴らしいです。特に「黒田節」は極上のジャズを思わせます。

 若いミュージシャンによるチンドンの演奏は素晴らしいの一言です。不思議な響きの演奏はとてもまろやかでアジア的な魅力に満ちています。チンドンの鉦の音のかろ味がいいです。アコーディオンのいかがわしさも魅力です。大衆音楽の神髄でしょう。

Chin Don, 12 Japanese Traditional Songs / Adachi Senden-Sha (2002 キング)